十月兔

　何か眠いので今日は短めに。

（２）

　お嬢様が夕方に見始めた番組が、そもそものきっかけだった。
　子供向けアニメとお料理番組が一体になった、幼児向けの番組。前半はアニメで展開し、後半は子供タレントがそのアニメの主人公の女の子（小学五年生）を演じて料理を作る、という構成になっている。
　お嬢様はこの番組が、たいそう気に入ったらしい。
　そしてその主役の女の子の服は、僕が着せられているピンクのメイド服に、とてもよく似ていた。メイド服にレースやフリルの付いたエプロンを重ねて、食材をモチーフにした飾りを付ければ、大体同じようなデザインになる。
　それもあっったのだろう。ある日、お嬢様は僕を見て、こんな事をいいだした。
「お兄ちゃん、真衣ちゃんみたいにお料理作って！」
　真衣というのは、その主人公の女の子の名前だった。つまりその女の子と同じ服を着て、料理をして欲しいというのだ。
　明らかに無茶な要求だったが、この家に勤める以上、お嬢様の言葉は絶対だ。僕はこの日から、その番組のヒロインと同じ姿で料理を作ることになったのである。