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十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2024-04

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体験入学 第四章 Part.11

「……隣は元気ね」
「一二歳と一五歳の少年二人が恋人同士で、一緒にいたいがために小学校に女子として編入。……世も末ね」
「まぁ、問題はないんじゃない? あたしは嫌いじゃないわ」
「あらお姉ちゃん。あたしだって悪いとは言ってないし、嫌いでもないわよ?」
 少年二人の客間を隣にした、別の客間。翠と茜はこの部屋のベッド脇に置かれたチェアに座って、のんびりとくつろいでいた。いかに壁が厚く防音性に優れた部屋とはいえ、何の遠慮もなしにぎゃんぎゃん喚く二人の声は、どうしても隣室に聞こえてくる。
「……でさ、どうしても確認したいんだけど」
 ベッドの中から声を出したのは、武生だった。首元まで布団をかけ、恨みがましい目つきで姉妹を眺めていた。
「今日、確実に俺の親が見つけるようなタイミングであの封筒が届いて――その日に限って、この家に児童会のみんなが一斉にやってきていたのが偶然だなんて、言わないよね?」
「ええ。だいたい、あの封筒の切手には消印がついていなかったの、気付かなかった?」
 茜は平然と答える。
 武生が家族に内緒で回収できないタイミングを見計らい、あの封筒を柚川宅の郵便受けに入れる。それにより、武生が家を出ざるをえないように仕向けたのだ。また一方で、この一件での協力者――悟、七菜の二人と、首謀者である瑠璃を集めておいた。
 さらに由音と来夏にすべての事情を明かし、瑠璃と武生の面会の場に潜ませておいて、フォローに当たらせた。彼女たち二人は、今日になって初めてすべての事情を知らされたらしい。それまでは翠や茜の思惑とは関係なく、悟や七菜をいじめて遊んでいただけのようだ。事情を知らされた彼女たち二人も、喜んで協力に当たった。
 そして武生を試し――さらに首謀者であるはずの瑠璃をあざむき、巧みに誘導することで、何とかこの大団円に持ち込んだのだった。それでも、武生がどのように返事をするかは出たとこ勝負の大ばくち。茜も翠も、かなり気を揉んだらしい。
 そこまでの事情を聞かされた武生は、ひときわ大きな溜息をついた。確かにそれなら、ご都合主義的なまでに「運が良く」「間がよい」いままでのあれこれも納得できる。
 思えば最初から、すべてこうなるように回っていた気さえする。しかしそれが結果として、決して悪くはなかったことも、いまなら判る。家族にうんざりしながらも離れられず、遠くの大学に行って自立するほどの覇気もなく、漫然と過ごしていた日々。そんな柚川武生の日々はここで終わり――そして、深山小学校への入学を目指す幼稚園児、竹尾ゆずかの人生が始まるのだ。
 それにここ二ヶ月の中で、竹尾ゆずかとして深山小学校の入学試験勉強をしているときのほうが、大学受験の勉強をしているときよりも、はるかに速いペースで学力が伸びていくのを感じていた。その方が、自分に合っているのだろう。
 ならば――ゆずかでも、いいじゃないか。
 茜と翠が、ベッド脇のチェアから立ち上がった。翠が武生の顔をのぞき込んで、優しく髪を撫でる。
「お休み、武生。そして、さようなら」
「うん。……おやすみ、酒匂」
 にっこり笑って目をつむると、やがて二人は部屋を出て行き、灯りが消される。暗闇の中布団に入った武生は、布団の下でパジャマに手を当てた。すでに、ゆずか誕生の準備は整っている。
 そうして武生は、ゆっくりと永い眠りについた……。

 * * *

「おはよう、ゆずかちゃん。朝よ!」
「あ、おはようございますっ、翠お姉ちゃん!」
「おはよう、ゆずかちゃん。今日も元気ね」
「茜お姉ちゃんも、おはようございますっ! うんっ、ゆずか、今日も元気だよっ!」
「そう。ゆずかちゃんはいい子ね。よく眠れたかしら?」
「うん、あのね、お布団がふかふかで、凄く気持ちよかったの。雲の上にいるみたい。だから、とってもよく眠れたよ。――あれ、その子、だぁれ?」
「あ、この子、私たちの妹なの。瑠璃っていうのよ。ゆずかちゃんと同い年だし、これから一緒に暮らすことになるから、仲良くしてね」
「はぁい。ね、るりちゃん、あたし、ゆずかって言うの。よろしくね」
「ゆずかちゃん。とっても可愛いお名前ね。あたし、るり。ゆずかちゃんと仲良くなりたいな」
「えへへ、ありがと。るりちゃん、これからよろしくね」
「うん、ゆずかちゃん、こっちこそよろしくっ!」
                     Fin.

体験入学 第四章 Part.10

「……よかったね、サト」
「少しも良くない」
 大まかな状況を茜から聞き、安心して、客間の個室に戻った悟と七菜。
 悟はすねた表情で、ほぼ四歳年上の下級生を見る。ソファで身を寄せ合う二人の両手指はかたく絡み合い、互いの顔も吐息がかかるほど近い。
「これで、ナナとも離れ離れじゃないか。いままでは瑠璃ちゃんのためっていうのを口実にして頻繁に会えたし、同じ学校の児童会にいたから、まだよかったけど……卒業したらナナに会えなくなっちゃう……」
「ばぁか」
 すねる悟を、七菜はくすくす笑いならが見つめる。一瞬、二人の唇が交差した。
「連絡すれば、いつだって会えるじゃない。お休みの日だって……その、平日だって、無理すれば会えるし」
「いつも一緒じゃなきゃ、意味はないもん」
「……サトって本当、子供みたいだな。あ、子供か」
「下級生に言われたくないっ」
 顔を寄せながらくすくす笑い合う二人。ふと思い出したように、七菜は言った。
「そうそう、神奈川の方に、全寮制の私立小学校があるらしいよ。何でも、中学生までなら再教育特別枠で入学できるらしいね。学年も選べるって」
「へ? そ、……それって、ナナ……」
「深山にいて、自分が小学生の女の子で通用するって判ったし、瑠璃ちゃんのことはゆずかちゃんに任せておけば大丈夫だろうから、そろそろ転校しようかなぁ……深山からなら、大抵の私立小学校が受け入れてくれるしね」
「ナナぁっ! それってつまり、僕にもそこに来いって言いたいの?」
「いやぁ、そんなことは言ってないけど……そうそう、その小学校、入学の申し込みがそろそろ始まるそうだし、入試もかなり厳しいって言うから、早めに準備しておいた方が……」
「言ってるっ! 絶対そこに来いって言ってるっ!」
「僕は女子として入寮するだろうから、ルームメイトになりたいんなら、女子として入ってくるしかないかなぁ。うちの校長先生に話せば何とかしてくれるかも知れないけど、女の子になるなんてサトには無理だろうなぁ」
「行くっ! 絶対行くからっ! そうだ、翠さんに頼んで、柚川くんが受けたっていう女の子になる特訓を――」

体験入学 第四章 Part.9


 * * *

「……芝居がかったやつ。最後まで冷や冷やさせてくれたわね」
「まったく。でも、よかったわ。あそこで友達になってあげるなんて言ってたら、即座に追い出したところだもの」
 瑠璃一人が取り残されたはずの暗闇の室内に、ひそひそと笑いが響く。その声は、由音と来夏のものだった。
 ぱちんという音とともに電気がつき、室内の闇が駆逐される。そこに浮かび上がったのは、灯りのスイッチに手をかける来夏の姿と、蝋燭の火を吹き消す由音の姿。
 不意に室内が明るくなり、呆然としていた瑠璃は二人の少女を見る。しかしまだ、目の前の事態に頭がついていけない。そんな彼女に、二人は笑顔で言った。
「良かったね、瑠璃ちゃん。明日新しく、このうちに女の子が来るんだって」
「ええ。武生お兄ちゃんのことは残念だったけど、結果的には良かったわね」
 にっこり笑いながら白々しいことを言う二人。それを聞いてやっと、瑠璃は声を上げた。
「え、じゃ、じゃあ最後のあれは……えぇーっ! ってことは二人とももしかして、武生お兄ちゃんにことらわ……断られるって、わかってたのぉ、ねぇっ!?」
 あまりに年齢相応の叫びに、由音と来夏はくすくす笑って視線を交わす。
「そりゃあそうよ。瑠璃ちゃんは同情を引くようなやり方で、お友達になって欲しいなんてこと言うんですもの。まともな判断すれば、ふつう、断るわよ」
「お友達になる、っていうのと、瑠璃ちゃん可哀想っ、僕にできることなら協力しますっ、ていうのはちがうものね。そうそう、瑠璃ちゃんは勘違いしてたみたいだけど、大庭会長だって瑠璃ちゃんのために協力してたのよ? 七菜に道ならぬ恋をしていたのも事実だけどさ」
「ええ。ただ彼の場合、瑠璃ちゃんとは全く関係なく、自分から女の子になる事情がなかった。だから自分は相応しくない、そう思ったんじゃないかしら」
「その点、柚川さんの方が適任だったね。彼なら、瑠璃ちゃんの意思とは全く関係なく、自分から小さい女の子になってやり直さなければいけない状況に置かれたんだもの……しかも自分の意思で、それを選んだ。瑠璃ちゃんたちの画策は別にしてもね」
「そうして、このうちに引き取られた女の子として瑠璃ちゃんと仲良くなる、そういう状況を作り出せる。理想的だったわね」
 二人だけで話を進める由音と来夏に、瑠璃は泣きそうな声で叫んだ。
「ちょっとぉ、二人で納得してないでよぉっ! じゃ、じゃあっ、お姉ちゃんたちが、武生お兄ちゃんにこう言ったほうがいい、こうすればお友達になってくれるはずだって言って、瑠璃に教えてくれたのは、全部、」
「うん、柚川くんを試すための口実」
 しれっとした顔で、由音。放心して、今度こそ涙をぽろぽろこぼす瑠璃の頭を、来夏がよしよしと撫でてやる。
「頭はよくても、この辺りはまだまだお子様ね。可愛いったらないわ。……ねぇ、そんなことより瑠璃ちゃん、明日になったらこの家に、新しく女の子が来るわ。瑠璃ちゃんと同い年だから、仲良くなれるといいわね」
「うん、……うんっ!」
 涙を流しながら、瑠璃は頭を大きく振る。それを見て、由音と来夏はにっこり笑い、瑠璃の頬に口づけた。

体験入学 第四章 Part.8

 そして武生は、答えを口にする。

「……、……」

「……嘘……」
 その答えを聞いた瑠璃の顔が、驚愕に彩られた。この場面でそんな答えが示されるとは、全く想像していなかったのだ。顔が真っ白になり、唇が震え、表情が一気に幼くなる。
「嘘……嘘よ、何で……もう一回、言って!」
「何度でも言うよ。……その申し出は、受けられない」
 武生は、固い声で言った。目の前の少女の願い、それを叶えようとする姉たちの思い、少女のために恥を忍んできた少年たちの覚悟、それをすべて知った上で――武生は、それを拒否したのだ。
 瑠璃の顔から、一気に表情が抜け落ちていった。そこに怒りはない。ただ、悲しげで、寂しげで、孤独な表情だった。
 不意に武生の脳裡に、昔の記憶がフラッシュバックする。
(お前なんか友達じゃないやい!)
 武生は思い出す。小学校のころ、自分が言われた言葉を。友達から――いや、友達だと思っていた相手からの、拒絶の言葉。そして、思い出す。仲が良いと思っていた相手からそう言われた時に感じた、怒るよりも、ただ悲しくて、やるせなかったあの感情を。
 目の前の少女は泣きそうになりながら、それでも懸命に涙をこらえていた。彼女も判っているのだ。自分の願いが、どれほど理不尽で無茶なものであるのかを。そして、いままで周りの人が、彼女の理不尽や、無茶に協力してきたのは、ひとえに自分に対する同情によるものでしかないことを。従って、相手から拒否されてしまえば、もはや彼女には何の力もない。
(そうじゃない。そうじゃないんだ)
 だが――だからこそ、同情ではだめなのだ。同情で友達になったのでは、その時は楽しくても、ひとりになったときにみじめな気持ちになるだけの関係だ。同情を失えば、悲しみを残して終わるだけの関係だ。それではだめだ。
 逆に武生はこう思う。瑠璃はそんなみじめな「お友達」関係を望んでいるのだろうかと。
 そうではない。武生はそれを確信していたからこそ、彼女の願いを聞くわけにはいかなかった。彼女にとって必要なのは、彼女が頼んだから「お友達」になる、そんな相手ではない。
 だからこそ。武生は、断ることしかできなかった。
「じゃあ、俺はもう行くよ」
 武生は瑠璃に、背を向けた。廊下をむくと、いつの間にか茜はいなくなっている。
 彼は、廊下に向かって歩き出し、ドアノブに手をかけた。瑠璃はその背後で、追いすがることもなく、泣くこともせず、ただ立ちつくしたままだ。それは、あまりにも万能だった少女の、あまりにも無力な姿だった。そんな彼女を取り残して、ドアの隙間がゆっくりと、細くなっていく。
 ドアが閉まる直前、武生はこう、言い残した。
「そうそう、俺は明日この家を出るけど……代わりに新しく、ひとりの女の子がこの家に来るんだって。何でも、家族から追い出されたのを翠が預かることにしたらしいけど。その子も背が高いそうだから、仲良くしてやって欲しいな」
 そしてゆっくり、扉が閉められた。

体験入学 第四章 Part.7

「ああ……」
 武生は長嘆息をもらした。彼女が「お友達」に、それも「自分より背の高いお友達」に執着する理由。その理由が、ようやくはっきりした。
「最初に言っておくけど、瑠璃は六歳……本当に、幼稚園の年長さんよ。武生お兄ちゃんや、七菜お兄ちゃんとは違って」
 武生からほんの数メートル離れたところにいる彼女は、ゆっくりとそう言った。
「お医者さんが言うには、病気とは違うみたい。単に遺伝と発育の問題だって。背の高い遺伝子に加えて、他の子に比べて成長が早いんだって言うの。頭ももう、一三歳並に達しているらしいわ」
 そうだろう。声は甲高い、幼稚園児のものだったが、口調ははるかに大人びている。
 彼女が口にしなくても、いままで彼女がどんな思いで暮らしてきたか、武生はおよそ推測がついた。他の子に比べ、はるかに大きな体。深山附属のようなエリート幼稚園の中にあってさえ、優れた知能。
 彼女自身はごくごく普通の幼稚園児のつもりでも、周りはそうは見てくれない。背が高ければ、それだけ奇異の目で見られる。彼女のつらさは、同じ思いをした武生にはよく判った。
 しかも武生のように、後から幼稚園児のふりをさせられているわけではない。確かにそれはそれで恥ずかしさをそそるものではあるが、武生たちはいざとなれば、同年代の子どもたちの間に交じることができる。しかし彼女にはそれがない。あくまで本当の幼稚園児でありながら、同い年の子供の間では、鬼児にならざるをえない。
 ひとりの少女の身勝手なわがまま。しかしそのわがままは、彼女の生い立ちを想像すると――聞いてやらないわけには、いかなくなる。考えてみれば翠も、茜も、性癖には色々問題を抱えているものの、それなりの良識は備えた姉妹だ。もしごく普通の幼稚園児の妹が、こんなわがままを言ったんだとすれば、相手にはしないだろう。だが――長い間同年代の子どもたちの中で苦しんでいた妹が、このわがままを言ったのであれば、理解はできる。
 すべてはこの少女の、あまりにも幼い――しかし、幼いがゆえに悲痛な望みから、始まったのだ。
 彼女は自らの願いを叶えるための、遠大にして無謀な計画を、武生の目の前で解き明かす。
「最初は七菜お兄ちゃん。茜お姉ちゃんが高校の時、制服を作りに行って見そめた子らしいわ。そして瑠璃の事情を説明すると、七菜お兄ちゃん、すぐに瑠璃に協力してくれた」
 そう。すでに二年以上前から、「瑠璃より背の高いお友達を作る」計画は、進行していたのだ。
「でも七菜お兄ちゃんは、瑠璃の入学より一年早く中学を卒業しちゃうし、瑠璃より背が低かった。だから次の人が見つかるまでの間、一足先に入学してもらって、後で来る人の予行演習にしたの。割と上手く行ったわ……武生お兄ちゃんと同じように、学校での勉強についていけないから小学校からやり直したい、という口実を使ったの」
 中学を卒業していながら、小学校からやり直す。それは、どれほどの覚悟だろう。しかし七菜は、自らの選択として瑠璃に協力した。自分が小学一年生の女の子として扱われるのを覚悟して。あとに来る、瑠璃の「お友達」が少しでも楽になれるように。
(すでに先例は作っておきましたし……ね、文月さん)
(うん。……何せ、全く同じ口実を使って、僕が入っているんですから)
 先ほどの、悟と七菜のやりとりを思い出す。そう、あの発言を考えれば、悟も協力者に違いない。児童会で嗜虐趣味を持った女子二人の攻撃が、格好の標的である七菜に行かないように、悟はあえてミスを繰り返していたのだ。彼は自ら彼女たちの餌食になることで、少しでも七菜の負担を軽くしようとしたのだろう。
 察するに、悟が協力しているのはおそらく瑠璃のためではない。悟であれば、身長、卒業年度ともに瑠璃の望む条件を満たせるのに、瑠璃の「お友達」になることなく、中学に進学したのがなによりの証拠だ。
 武生は先ほど絡み合った、少年二人の指先を思い出した。おそらく悟は、七菜に対して憧れを抱いているのだ。少女のような美貌、優しさと、少年としての強さ、誠実さを兼ね備えた七菜に対して。そしておそらく七菜も、悟の想いを受け入れている。
「ふふ、だいたい気付いたみたいね。そう。七菜お兄ちゃんも、悟お兄ちゃんも、瑠璃のために……悟お兄ちゃんはほとんど七菜お兄ちゃんのためだけど、協力してくれていたの。あ、由音お姉ちゃんと来夏お姉ちゃんは、何も知らされてなかったのよ? お姉ちゃんたちが悟お兄ちゃんや七菜お兄ちゃんをいじめてたのは、お姉ちゃんたち自身の趣味」
 七菜と翠、茜とは、体験入学の前からの共謀者だったのだ。つまり校長室での七菜と翠の自己紹介は、茶番だったわけだ。それはおそらく、武生だけではなく、校長先生の目をあざむくためのものだったのだろう。中学卒業後に来た七菜と、高校生でありながら体験入学に来た武生。よく似た二人の接点である翠が、七菜や悟との関係を伏せたのは当然だ。さらにここに、幼稚園児でありながら身長の高い瑠璃を考え合わせれば、あの聡明な校長のことだ、すぐに彼らの計画を看破したに違いない。
 妙なところで得心のいった武生に、瑠璃は、部屋の中に響き渡る高い声で――改めて、問いを発した。

「ねぇ、武生お兄ちゃん。もう一度訊くわ。瑠璃のお友達に、なってくれるわよね?」

 武生は目を閉じた。そう、自分より年下の少年たちが、自ら恥をかくことを覚悟してまで、彼女のために――身体が大きいという理由だけで辛い幼少期を送ってきた瑠璃のために、尽くしてきたのだ。自分たちが、単なる露払いでしかないと知りながら。
 だが――武生がここで答えを誤れば、彼らの思いを、覚悟を、願いを、すべて潰してしまう。
 自分がどうするべきか、もはや、自明だった。
 答えは、決まっていた。

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