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十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2009-05

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乙女座の園 第0エリア(5)


(5)

「ほ~ら」
 留美が勝ち誇った顔で、良介の眉を描いてゆく。
「やっぱりあたしより美人になったぁ。これはもう、先輩に女の子として働けという神様仏様のお告げとしか」
 留美はなんだかんだ言いながらも、良介のメイクを買って出た。ファウンデーションにルージュ、チーク、アイラインを描いてからマスカラをつけ、さらに眉毛を描いたところで……良介の顔は、劇的に変化していた。女性二人はそれをまじまじ眺めながら、
「美人ね。たぶん、うちの社員で一番きれいじゃないかしら」
「否定できないのが悔しいです」
「最後に、靴ね。ミュールでいいかしら」
「はい。私、予備のミュールをもっているんで、それで」
 そんなわけで、ミュールを履き、最後にスプレーで軽くセットすれば完成だ。投げ遣りな良介の顔を見ながら、二人はうっとりつぶやく。
「きまりね。今日からしばらくその格好で働きなさい。まずは、宣伝部に挨拶に行くわよ」
「ま、それはまずいですし、嫌ですよ! 何で僕が、こんな服を着たまま他のみんなに挨拶しなきゃならないんですか!」
「いいじゃないの、どっちみち後でウェイトレスとして働くことになるんだから、その予行演習よ」
「決定事項にしないでください!」
 叫び声もむなしく、彼は宣伝部の部屋に連れて行かれた。
 宣伝部は営業回りも多い、いわゆる「外部組」に当たる。晴香たちにとって残念なことに、そして良介にとっては幸運なことに、今は二〇代半ばの部長一人しか残っていなかった。無論女性である。
「あーしゃちょー。どったの。なんか可愛い子連れてるじゃん。だれだれ? しょーかいしてよ」
 晴香たちを見るなり中年男性のような第一声を発したのは、その宣伝部長。ベテランで、晴香に対してもほぼ対等な口を利く。何せ本社から「B&B」が分かれる際、晴香と彼女のどちらが社長となるかで会社を二分する騒動になりかけた女性だ。騒動が表面化しなかったのは、彼女があっさり身を引いたからに他ならない。能力と野心はあっても地位にはこだわらないタイプだった。彼女があえて春香の下につけられたのは、いざとなったら春香の地位を逐って社長になれという、本社の方針でもある。
 周りのそんな意図を知りながらも、春香とこの宣伝部長は仲が良い。プライベートでも、遊びや旅行に行っているそうだ。
「紹介するも何も、知ってる子じゃない。有沢君よ」
「うーん、有沢、有沢……って、おお、りさちゃんか!」
 げふんげふん。いきなり「りさちゃん」呼ばわりされて、良介は盛大にむせかえった。自分はそんな風に呼ばれているのか。女装する前から。
 しかしこれを聞いた晴香と留美は、うれしそうに目を見かわした。
「それいいわね。りさちゃん、うん、りさちゃんね」
「ぶりっ子っぽいくらい女の子な名前が違和感ないのは、何ででしょうね。私より年上の男性なのに。うー、これはもう事務所から放り出して、代々木駅前を歩いている人にみてもらうしか」
「こらこら、落ち着きなさい」
 そんな二人のやり取りも知らぬげに、宣伝部長は良介をまじまじと見つめた。
「うーん、可愛いじゃないか。うちの部一の美人であるあたしよりも器量がいいたぁ合点がいかねぇが、こんだけ似合うんじゃ認めないわけにはいかないな。カミングアウトした甲斐があったってもんだ。なぁ、りさちゃん」
「してません! 女装趣味なんてありませんから! この二人に好き勝手されたあげく、ここに強制連行されただけです!」
 良介の叫びも、宣伝部長は聞いていない。相変わらず伝法な男前口調のまま、
「ちぃっとこのまま、りさちゃん借りていい? 何せ他の奴らみんな出払っててさ、猫どころかりさちゃんの手でも借りたい状態なんだ」
「禁帯出ですっ! ていうか、猫の手より格下ですか僕の手は!」
「いいわよ。まだ女の子としての振る舞いが身についてないから、せいぜい教えてやってちょうだい」
「おう。明日までには身も心も女の子になってること請け合いだ。任せとけ」
「って部長、何するつもりですか、ってああっ、社長、助けてくださいよ!」
 晴香と留美は、叫ぶ良介を宣伝部長の毒牙にかけ、そのまま部屋を後にした。

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