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十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2009-03

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体験入学 第二章(6)

 (6)

 茜と翠の姉妹に導かれるように、武生ははいはいをして廊下を進む。周りには、何事だろうと、何人もの参加児童や保護者が遠巻きに眺めていた。そんな観衆の中を進む彼の姿は、まるで本当の赤ちゃんのように頼りない。
「翠は、いい子にしていれば外には出さないって言ったけど、教師としてはそんな甘いことじゃあいけないもの。ほら、はいはいして」
 武生の懇願にもかかわらず、茜は彼を廊下へと連れ出した。学校見学で人気のある場所は、体育館やプール、運動場、あるいは三階四階の音楽室や理科室に集中していたが、通路として二階にいる見学者も多い。
 誰も彼も、茜の先導で廊下をはいはいする武生に注目する。一刻も早く視線から逃れたかった武生だったが、その屈辱に満ちた道行きは、さほど長いものではなかった。
 向かう先は、女子職員更衣室から数メートル離れたところにある、校長室。先ほどの小山内校長がいる部屋だ。
 茜は丁寧にノックしてから、中に声をかけた。
「失礼します。臨時講師の酒匂です。いま、よろしいですか?」
「……構いません。中で待ちなさい」
「失礼します」
 茜は重いドアを開け、入る。続いて武生が入り、最後に翠がお辞儀をしてドアを閉めた。
 小山内校長は校長席にいて、その前にいる三人の児童と話をしている。いずれも同じくらいの身長で、セーラー服に白いリボンという、深山小学校の女子制服だ。
 学年により、セーラー服の色は違う。それぞれ色が違うところを見ると、背丈は似通っていても三人は別の学年のようだった。
 一人は黒のセーラー服で、おかっぱで童顔の少女。一人はブルーのセーラー服に、やや冷たい大人びた顔立ちで、長い髪の毛を後ろで三つ編みにしていた。残る一人はピンクのセーラー服を着て、二人の後ろに立っている。髪はリボンを結んだツインテールで、あどけない顔によく似合っていた。
三人のうち、前に立つ児童二人は怖じることなく校長と議論しており、切れ切れに、こんな言葉が聞こえてきた。
「児童会の役員選出は……いささか重すぎ……」「しかし児童会の自律のためには、どうしても必要な……」「公正な判断基準こそが求められるべきと……」「すべてに亘って権限を委譲することこそ、児童の教育に資する……」
 小学生の会話とは思えない、難しい議論だった。やがて決着がついたのか、三人は揃って校長に頭を下げた。
「ありがとうございました。次回の児童会では、是非校長先生の期待に添えるよう、微力を尽くします」
「ええ、頑張ってくださいね」
「はい、それでは失礼します。……あ、酒匂先生」
 三つ編みの児童が、茜に気付いて挨拶する。おかっぱの少女は茜への挨拶もそこそこに、武生の姿に気を引かれたようだった。
「わ、どちら様ですかそちらの方は。お召し物は、深山小学校附属幼稚園児童矯正専用服とお見受けしますが」
 ヘンに丁寧な口調。どうやら日常的に敬語を使いつけているようで、何の乱れもない。茜は笑った。
「順番に紹介するわね。こちら、私の妹の翠。高校三年生よ」
「どうも、よろしくお願いします」
 頭を下げる翠。どうもご丁寧に、と言って、小学生三人が返事をする。次いで茜は、武生のほうに手をかざした。翠がすかさず、彼が口にくわえたおしゃぶりを外す。おしゃぶりから、よだれの糸が光った。
「こっちは柚川武生くん。翠の同級生で、来年この小学校を受験する予定の子よ。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします……」
「はい。よろしくお願いしますね、柚川くん」
 こんな「お仕置き服」を着ているのが高校三年生の男子と知っても、しかも来年この小学校を受験する予定と聞いても、三人は全く動じず、丁寧に挨拶を返す。しかし翠は、武生をじろりと見てこう言った。
「ちょっと、武生! そんなおざなりな挨拶じゃあ、将来の先輩方に、失礼じゃない」
「え、あ、ごめんなさい! 竹尾ゆずか、深山小学校附属幼稚園の年長です! よろしくお願いいたします、お姉様!」

体験入学 第二章(5)


(5)

 ボレロ、ベレー帽、ジャンパースカート、ブラウスと、大人しく脱いで行きながらも、武生は怯えた。二人の性格からして、どのみちこの「お仕置き服」を着せられることは、もはや確定事項だった。しかしそれでも、
「ね、ねぇ、このお部屋の中だけでだよね? お外に連れて行かないよね?」
 精一杯可愛い口調で尋ねる。翠はにんまりと笑いながら、
「もちろんよ。ただし、ゆずかちゃんがいい子にしてたらね?」
「うん、ゆずか、いい子にしてる。だから……」
「じゃあまずは、悪い子専用の制服を着なさいね?」
「はぁい」
 愛想を振りまきながら、武生は大人しくそれを着る。
 構造は長袖のワンピースに近いし、伸縮性のある素材なので、かぶるように着ればいい。しかもほとんどフリーサイズなので、かなりぶかぶかだ。ウエストのフリルを押し下げて、股下のスナップを留めようとしたところで、翠から声がかかった。
「あ、忘れてたわ。ショーツも脱いで、横になって自分でおむつをつけなさい」
 武生は恥ずかしそうに、ぎゅっと目を閉じた。
 そう、これこそがこの「お仕置き服」が嫌がられる、最大の理由だった。ショーツを脱いで大人しく仰向けになった武生の前にかがんだ、翠の手にあるのは紙おむつ。そう、この「お仕置き服」は、下に紙おむつをつけなければならないのである。
「本当に武生くん、大人しいわね。すっかりゆずかちゃんね」
 茜が笑う。先ほどから、「武生」と「ゆずか」を混ぜて喋っているのは、それが彼に対して恥辱を与えるに効果的であると、判っているからだ。本当は男なのだと言いつつ、女の子として扱っているのだ。
 クロッチのボタンを外した状態で、仰向けになり、おむつを受け取る。他人におむつを当てられるのも恥ずかしいが、自分ひとりでおむつをつけるのも極めて恥ずかしい。自分の手で、自分の意思でおむつをつけているのだ。
 ロンパースの股下部分を巻き込まないよう気をつけながら、お尻の下におむつを敷き込み、密着させるようにして前当てを手前に引く。そして横羽を前当てに接着し、固定する。本当にお漏らしをすることは前提にしていないので、当てるのは一枚だけだが、それでも十分恥ずかしい。
 クロッチ部分のスナップボタンを留め、布をおむつの下に滑り込ませるようにして、おむつが出ないようにする。最後にフリルを整えれば、ロンパースの着用は完成する。
 上半身は、まるで長袖のブラウスとワンピースを着たような見た目ながら、下半身は太腿から丸出しになる。幼稚園児でさえ嫌がる理由は、この、いかにも赤ちゃん然としたデザインにあった。
「さっさとしなさいね。でないと、このまま給食体験になるわよ」
「は、はぁい!」
 言われて焦る武生。残る小物を、翠の手から受け取って急いでつけてゆく。ベビーフードのような、頭全体を覆うフリルのついた帽子。さらにピンクの生地でできたソックスに、ミトン。このソックスは中敷きが下方向に丸くなっており、これをはいた状態だと、フローリングの床の上ではまともに歩くことができなくなる。しかも生地が滑らかなので、はいはいしていても上手く歩けない、そんな代物なのだ。
 最後に渡されたものを見て、一瞬躊躇する武生。しかしそれが命取りになってはと、彼は素直にそれを口にくわえた。――そう、それはレモンイエローの、可愛らしいおしゃぶりだったのだ。
 ロンパースだけではない。この「お仕置き服」は、幼稚園児を赤ん坊のように扱う、そんな恥辱に満ちた衣装だった。
 それを見た茜は、一言。
「じゃあ、行きましょうか」

体験入学 第二章(4)


 (4)

 大学への道をこんなかたちで閉ざされた武生は、がっくりと肩を下ろす。脱力した彼に、しかしこの姉妹は容赦なかった。
「給食体験まで、しばらくあるわね」
 翠の言葉に、姉が肯く。
「ええ。校舎の中を案内してあげるわ」
 そういって、脱力している武生を引きずるようにして教室を出る。どこに連れて行くのかと思っていたら、職員室すぐそばにある、女子職員の更衣室だった。
「今日は授業をやる職員以外には来ていないし、この部屋そのものが実際には全く使われていないから、安心していいわよ。さ、いらっしゃい」
 ならなんで、使われていない部屋に連れてきたのか。その答えはすぐに来た。
 ボレロの背中にある隙間から手を差し入れた茜が、ジャンパースカートのファスナーを一気に引き下ろしたのだ。
「やあぁっ!」
 慌てて悲鳴を上げる武生。しかし茜は容赦なく、首筋からジャンパースカートのホックを外し、腰のリボンもほどいてしまう。
「可愛い悲鳴ね。でも、あんまり叫ぶとお外に聞こえちゃうわよ?」
 茜はにやにやと笑って、言う。武生は慌てて口を押さえ、自分の状況を確認した。ボレロこそ羽織っているものの、背中のファスナーを開けられてジャンパースカートがずり落ちそうだし、腰のリボンも垂れ下がっている。そしてこの制服、一人ではとても着替えられない。
 一ヶ月にわたる「特訓」のせいで、武生も翠の行動パターンは読めてきていた。そして彼女の姉が、翠同様の行動パターンであろうことも把握できた。彼は諦めてボレロを脱ぎ、ジャンパースカートを引き下ろした。
「……で、何を着ればいいの?」
「物わかりがいいわね、ゆずかちゃん。翠の訓練の成果かしら」
 姉妹は笑い、翠が持っていたバッグの中から、「着替え」を取り出した。それを見た瞬間、武生の顔色が変わった。
「そ、それ……!」
「そうよ。附属幼稚園のお仕置き服。……知ってるわよね?」
 知っているの段ではない。武生は「特訓」の中で一回だけそれを着たことがあるが、正直二度と着たくないような代物だったのだ。しかもそれを、この体験授業の時に着ろというのか。当惑する彼に、茜は冷たい声を出した。
「さっきの英語の授業で失敗を重ねた罰よ。丸一日とは言わないから、しばらくの間着てなさい」
 深山小学校附属幼稚園児童矯正専用服、通称「お仕置き服」。何回言ってもお漏らしが治らない子や、他の子に対して乱暴をはたらいた子など、学校側が特に必要と認められた場合に限り、その子に一日間の着用が義務づけられる服である。しかし実際にはほとんど着用が行われたことがなく、極めて不名誉な服であるがゆえに、ここ数年該当者ゼロ。つまり幼稚園生にとってさえ、「あの服を着せられるくらいなら我慢しよう、いい子にしよう」と思わせるほど、恥ずかしい服なのだ。
 それは端的に言えば、長袖のロンパース。上半身は重ね着風で、ワンピースの下に長袖の丸襟ブラウスを下に着ているように見えるが、実際には一枚だった。ワンピースように見える部分はベビーピンクで、肩紐のように見える部分には大きなフリル。しかもお腹の部分にはウサギさんの、背中にはクマさんのアップリケがついている。
 ロンパースだから下はおむつカバー風になっていて、クロッチ部分をスナップボタンで留める構造だ。しかもそのカバーの上から、ワンピースのようなフリルが三段もついていて、一見するとブルマードレスにも見える。
 女の子用のデザインと色合いだが、これで男女兼用。なので特に男子からは、これを着るくらいなら裸で園舎を一周した方がマシ、という声さえ聞かれるほどのものだった。

体験入学 第二章(3)

 どうも、神無月です。
 エリりんさん、コメントありがとうございます。「恥辱庵」様の方でもたびたびお見かけしていましたので、お褒めにあずかりまして感激いたしております。
 文月さん、良いですよね。あの制服店では、彼女の趣味で近隣の学校・幼稚園の制服はほぼ網羅しておりまして、しかも170センチサイズまで揃えています。是非お立ち寄り下さい(笑)

 それでは、本日も開演いたします。

 * * *

 (三)

「……信じらんない……」
 授業終了後、武生のそばに近づいてきた翠は開口一番こう言った。
「発音が下手とか、そういう次元じゃないじゃない。「go」の過去形は「went」よ! しかも堂々と、あいあむ、ごーしょっぴんぐ、いえすたでい……とかやるし、もう、見ちゃいられなかったわ」
 ぐぅの音も出ない。武生は赤くなって、
「ごめんなさい、お姉ちゃん……」
 幼稚園児、というか中学生の女の子のふりを続けたまま、大人しく答える。
 授業はだいたい、そんな感じで進んでいった。流暢に、自然に、時にウィットに富んだ答えを返す子どもたちに対して、武生は母音でごつごつの英語をつっかえつっかえ返す。文法的にも、中学生で習うような所をいくつも間違えるので、他の子どもたちや後ろのお母さん方から失笑を買ってばかりだった。
 他の子どもたちは、それぞれ保護者に手を引かれて、教室を後にする。子どもたちが楽しげに話題にしているのは、武生のことに違いなかった。
「あのお姉ちゃん、身体おっきいけど英語は下手だったね! ママ、あたしの方がよっぽど上手でしょ?」
 そんな声が、武生の耳にも入ってきていた。
 そうしてちらほらと子供の姿が消え、教室に残っている参加者が、武生と翠だけになったとき。
「ふぅん、その子がゆずかちゃんなのね」
 思っても見なかった方向から、不意に話しかけられて、武生はどきっとした。
 そこにいたのは、さっきまで英語を教えていた先生だ。名前は、アカネ先生。彼女は武生の方を向いて、にぃっと笑った。
「なに、面食らってるのよ。……あれ、翠、ひょっとしてあたしのこと何も言ってないのかしら?」
「もちろん。だって、その方が楽しいもの」
 脇から答える、翠。そのやりとりを見て、武生はぴんと来た。
「あ、もしかして……!」
「そうよ。そこの翠ちゃんのお姉さん。大学二年だけど、臨時講師でここの英会話講師をやってるの。よろしくね」
 まるで聞いていなかった。武生は恥ずかしさのあまり、今更ながら唇を噛む。ということは、いま自分が本当は高校三年の男の子であることも、知られているに違いなかった。
 しかし実際は、この二人で行われたやりとりは、武生の想像のはるか上を行っていた。武生の体験入学申込書が受理されたのは、すべてアカネ――翠の姉である、酒匂茜の手回しによるものだったのである。彼女は「ある人物」の要請により、翠に指示を与えて武生に申込書を記入させ、アカネ自身はそれを強引に通して、「ある人物」の要請にこたえたのである。
 つまり、武生が申込書を書いて、それが受理、当選されてしまったのは、すべてこの二人と――そしてそれを指示した、「ある人物」のたくらみによるものだったのだ。当然、小山内校長に掛け合った翠の言葉も、校長に反論されるのを想定してのものだった。
 だいたい、参加を辞退するだけならば、わざわざ本当のことを明かすまでもない。急用ができたからやむを得ず参加を取りやめると、そう伝えるだけでいいはずなのだ。あえて冗談でした、許してくださいと謝ることで、小山内校長が「冗談で申し込むとは許せない、何としても参加しなさい」と言うのを見越していたのだ。
 そのことは、もちろん武生は知るよしもない。せいぜい、翠がこの小学校の講師である茜とグルになって、自分を辱めようとしている、そう思いつく程度だ。
「それにしてもゆずかちゃん、可愛いわね。附属幼稚園の女児制服も似合ってるし……本当、男の子とは思えないわ」
 誰もいないのを見計らって、この台詞。武生は赤くなった。
「でもあの程度の語学力じゃ、この深山には入れないわよ。せっかく可愛いのにね」
「は、入るつもりなんて……」
「あら、じゃあなんで体験入学に申し込んだのかしら? 入学するつもりでないんなら、体験入学に申し込んで他の子のチャンスを潰すなんて、ひどいじゃないの?」
 小山内校長と同じ事を言う。そういわれれば、反論のしようがない。そこを突くように、
「ねぇ、ゆずかちゃんは入学を前提にして、体験入学を申し込んだのよね? ね?」
「……ゆ、ゆずか……」
「ね?」
「……は、はい、ゆずか、この小学校に入りたいから、体験入学を申し込みました……」
「うん、よろしい。……だ、そうですよ、校長先生」
 驚きに目を見張る武生。アカネがさっと身体を横にすると、その後ろ、彼女の影になるように、小山内静子校長が立っていた。武生の方を見て、大きく肯く。
「そうですか。なら、是非ともこの学校を受験してください。無事、入学できる程度の学力が認められれば、書類の手続等も含めて貴方が希望通り本校に入学できるよう、尽力しましょう」
 はめられた。そう気付いた武生だったが、もはやどうしようもない。茜と翠は楽しそうに笑っているだけで、口添えをしてくれる気もないようだ。絶句した彼にとどめを刺すように、
「しかし、もしも貴方が本校を受験しなかった場合……あるいは、大学などを受験した場合。虚偽の意思表示を行ったものとして、相応の手段をとります。……覚悟、しておいてくださいね」
 言うなり、小山内校長は武生の返事も聞かず、ヒールの音も高らかにきびすを返した。

体験入学 第二章(2)

 神無月です。
 ゆうゆさん、コメントありがとうございます。イラストをご期待下さって嬉しいです。
 いずれイラストもつけたいと思っているのですが、なかなか……とりあえず、作品を書くに当たって描いた深山小学校附属幼稚園の制服のラフ絵を置いておきます。
seifuku1_s.jpg
 前プリーツは四枚、後ろプリーツは二枚で、椅子に座るときにプリーツがしわになりにくいデザインです。前のくるみボタンも、後ろのリボンと同じチェック柄。

 それでは本日も、小説をどうぞ。

 * * *

 (二)

 ところがここで、一悶着あった。
 一人の保護者が、先生の方に近づいて何やら問答し始めたのだ。ちらちらと武生の方を見ているところを見ると、「なんでこんな身体の大きい子がいるのか?」ということについてだろう。先生は何か説明し、前に来ていた保護者は後ろに戻る。あんな短い間に説明が終わったとは思えなかったが、その理由はすぐにわかった。先生は不意に手を叩いて立ち上がり、こう言ったのだ。
「皆さん、よろしいですか。いま保護者の方からご指摘がありましたので、説明をいたします。ご静聴下さい。その指摘というのは、こちらにいらっしゃる」
 彼女は、武生を示す。半ば予想していたこととはいえ、武生は焦った。
「こちらの子が、体験入学を受けるには大きすぎるのではないか、ということです。……こちらのお子様は、確かに本来ならば中学校に通っている年齢です。しかし、学校での授業について行けないから、この深山小学校で一からやり直したいという本人の希望で、幼稚園児として体験入学にご参加下さいました。皆様のご理解をお願いいたします」
 先生がそう言い終えると、保護者は納得したように、それでも尽きせぬ好奇の視線を向けたまま、武生のほうを眺めている。武生はさらにいたたまれなくなった。
 しかも本来なら、彼は中学生の女子ですらないのだ。高校三年生の男子が中学生の女子といつわって、しかも幼稚園児の中にいる。中学生の女子として、小学生の体験入学を受ける屈辱を味わいながら、さらに本当のところを突き詰めればそれ以上の辱めを受けている。武生にとっては二重に屈折した、とても耐え難い恥ずかしさだった。
 だがそれも、長くは続かなかった。授業開始のチャイムが鳴ったからだ。チャイムが鳴り終えると同時、先生は高らかにこう言った。
「Hello, Everyone!」
「Hello, Teacher!」
 いきなりだった。先生は英語でみんなに挨拶をし、子どもたちはそれに英語で答える。とっさに何が起こったか判らず、武生はきょろきょろと周りを見回した。
 先生はにっこり笑顔で、武生の方を向くと、英語でこう言った。
「(みんな、いい子ね。でも、そこの女の子がついて来れなかったみたいだから、もう一度やりましょう?)」
「(はい、先生!)」
 他の子供は、先生の流暢な英語を難なく聞き取って、受け答えする。武生にとっては信じられない光景だった。もう、ついていくどころではない。誰が何を言っているのかさえ判らない。
 しかも授業は、完全に英語だけで行われるようだった。そんな話は全く聞いていないが、そんな武生の思惑を無視して、授業はどんどん進んでいく。
「(ついでに、私の名前も教えましょうね。私の名前はアカネ。これからはアカネ、って呼んでね? じゃ、もう一度行くわよ? そこの女の子も、ちゃんとついてきてね?)」
「い、いえす!」
 いきなり目を向けて疑問系で言われた武生は、思わずそう答える。発音も無茶苦茶な、ひらがな英語だ。後ろのお母さん方が失笑し、子どもたちも何かいやな笑いを浮かべた。自分より格下の存在を見つけたときの笑みだ。
 アカネは気を取り直し、改めてみんなに呼びかける。
「Hello, Everyone!」
「Hello, Akane!」
 子どもたちに合わせ、なんとか武生もついていく。今度は上手く行ったようだが、発音の堅さが目立ってやはり失笑を買った。
「(それじゃみんな、まずは一人一人、自己紹介してもらえるかな? 一緒に、何に興味があるのかも教えてくださいね。……まずは前の席の君から)」
「(はい、アカネ先生!)」
 アカネから指名されたのは、右手のほうの席に座っている、利発そうな男の子だ。深山小学校附属幼稚園の男子制服である、クリーム色のハーフパンツとベストををきっちり着こなしている。
「(僕の名前はオオクニスズヒコです。スズと呼んでください。好きなものは野球とスモウ。将来は、野球の選手になってメジャーリーガーを目指したいです)」
「(スモウとは渋い趣味ですね。でも、素晴らしい夢ね。ありがとう、スズくん。……じゃあ次、その隣の女の子ね)」
 次に指名されたのは、モノトーンの上品な制服を着た女の子。
「(はい、アカネ先生。私の名前はマイハラサトミです。みんなからはさっちゃん、って呼ばれています。好きなものはピアノと、演劇に興味があります)」
 このあとも、次々に子どもたちは答えていく。みんな流暢な英語で、武生にはほとんど聞き取れなかった。それでも他の子どもたちは判っているのか、うんうんと肯いている。そしていよいよ、彼女が武生の方を向いた。
「(じゃあそこの子、挨拶してくれるかな?)」
「あ、あ……」
 そして。

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