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体験入学 第二章(1)
神無月です。どうも、ご教示ありがとうございます。
しかしHPを運営するとなるとかなり手間ですし、こちらでもtxtファイルを貼り付けることはできるようなので、それでお茶を濁します(汗)
ブログの表示も、カテゴリから選択すれば古→新の順になっておりますので、そちらからお読み下さる場合にも読みやすくなっております。
それではさっそく、第二章を始めます。いよいよ体験入学当日ですね。
「体験入学」序章~第一章 taiken1.txt
* * *
第二章 承前の二児(つづきのふたご)
(1)
エントランスの目立つ場所に、案内の紙が貼ってある。そこには、こうあった。
「スケジュール案内
授業体験 九時三〇分~一一時〇〇分
休憩・校内見学
給食体験 一二時〇〇分~一三時〇〇分
休憩・校内見学
児童会挨拶 一五時三〇分~一六時〇〇分
休憩・校内見学(~一七時〇〇分まで)
授業別クラス案内
英語……一年一組(二階)
算数……一年二組(二階)
図工……図工室(一階)
音楽……音楽室(三階)」
案内に従って、武生たちは二階、一年一組の教室に進んでいく。廊下が狭いため、校庭を歩いていたときよりも他の参加者や保護者とすれ違う頻度が上がり、いちいち振り返られることも多くなる。はじめは逃げ出したかった武生だったが、ここまで来るとかえって諦めに近づいてきた。
一年一組の教室の前まで来た、武生と翠。武生は息を吸い込んで、とんとんとドアをノックした。そのまま、元気よく挨拶する。
「失礼します!」
「はい、どうぞ」
中から女性の声が聞こえ、武生はドアを両手で開けた。教室は、高校のそれと同じくらいの広さだが、机が撤去されているせいか、はるかに広く見える。前のほうには先生とおぼしき若い女性が椅子に座り、彼女を囲むように二十台ほどの椅子が並んでいた。うち半数が、すでに参加者の幼稚園児たちによって埋まっていた。
教室の中に一歩踏み出した武生は、特訓でやったとおり、手を膝に当てて挨拶する。
「私の名前は竹尾ゆずかです。皆さん、今日はよろしくお願いします!」
そういって、頭を下げる。一ヶ月の特訓の成果で、武生は本当に小さな女のような高い声と、舌足らずな口調が出せるようになっていた。顔を上げると、教室に先に入っていた、十人くらいの子どもたちが、ぽかんとした顔で彼を見ていた。
そんな子どもたちとは違い、先生は、武生に軽く微笑みかけた。ショートカットにきつめの顔立ちで、Tシャツとデニムのロングスカートという、カジュアルなスタイルの先生だ。
「はい、ゆずかちゃん。よく言えましたね。ほら、みんなも、ゆずかちゃんのご挨拶に答えてあげてね」
「こんにちは!」
子どもたちは、戸惑いながらも唱和する。しかし彼らが武生を見る目は、明らかにこう言っていた。
(なんでこんな大きいお姉ちゃんが、幼稚園の服でここに来てるんだろう?)
それでも子どもたちは良くしつけられているのか、ひそひそと話すこともなく、大人しく座っている。それよりも反応が激しかったのは、教室の後ろに並んでいるお母さん方だった。隣のお母さんとひそひそと囁きあって、武生のほうを、怪しむような、おかしがるような、変な目つきで見ている。後ろから歩いてきた翠は素知らぬ顔で、そんなお母さん方のあいだに立ち、すまし顔で子どもたちのほうを眺めている。
武生は恥ずかしいのを堪えながら、教室の中に入り、席に座る。ジャンパースカートの裾を払い、背中のリボンを敷き込まないように後ろに流して、綺麗に座った。これまで何度も繰り返した手つきだ。慣れた手つきを見たお母さん方が、またひそひそと囁き合う。
しばらく待っていると、他の子どもたちが入ってきた。しかし武生と違い、先生のほうに軽くお辞儀をするだけで、挨拶も、自己紹介もしない。武生は、赤くなった。翠が言っていた、部屋にはいるときの礼儀――小山内校長から伝えられたというあの礼儀は、でたらめだったのだ。翠が面白がって嘘をついたのか、小山内校長が彼に対する罰の一つとして嘘を教えたのかは判らないが、確実なのは、ただでさえ目立っている自分がさらに目立ち、他の子どもたちや保護者から笑われる種を作ってしまった、ということだった。
いよいよ、体験授業が始まろうとしていた。
しかしHPを運営するとなるとかなり手間ですし、こちらでもtxtファイルを貼り付けることはできるようなので、それでお茶を濁します(汗)
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それではさっそく、第二章を始めます。いよいよ体験入学当日ですね。
「体験入学」序章~第一章 taiken1.txt
* * *
第二章 承前の二児(つづきのふたご)
(1)
エントランスの目立つ場所に、案内の紙が貼ってある。そこには、こうあった。
「スケジュール案内
授業体験 九時三〇分~一一時〇〇分
休憩・校内見学
給食体験 一二時〇〇分~一三時〇〇分
休憩・校内見学
児童会挨拶 一五時三〇分~一六時〇〇分
休憩・校内見学(~一七時〇〇分まで)
授業別クラス案内
英語……一年一組(二階)
算数……一年二組(二階)
図工……図工室(一階)
音楽……音楽室(三階)」
案内に従って、武生たちは二階、一年一組の教室に進んでいく。廊下が狭いため、校庭を歩いていたときよりも他の参加者や保護者とすれ違う頻度が上がり、いちいち振り返られることも多くなる。はじめは逃げ出したかった武生だったが、ここまで来るとかえって諦めに近づいてきた。
一年一組の教室の前まで来た、武生と翠。武生は息を吸い込んで、とんとんとドアをノックした。そのまま、元気よく挨拶する。
「失礼します!」
「はい、どうぞ」
中から女性の声が聞こえ、武生はドアを両手で開けた。教室は、高校のそれと同じくらいの広さだが、机が撤去されているせいか、はるかに広く見える。前のほうには先生とおぼしき若い女性が椅子に座り、彼女を囲むように二十台ほどの椅子が並んでいた。うち半数が、すでに参加者の幼稚園児たちによって埋まっていた。
教室の中に一歩踏み出した武生は、特訓でやったとおり、手を膝に当てて挨拶する。
「私の名前は竹尾ゆずかです。皆さん、今日はよろしくお願いします!」
そういって、頭を下げる。一ヶ月の特訓の成果で、武生は本当に小さな女のような高い声と、舌足らずな口調が出せるようになっていた。顔を上げると、教室に先に入っていた、十人くらいの子どもたちが、ぽかんとした顔で彼を見ていた。
そんな子どもたちとは違い、先生は、武生に軽く微笑みかけた。ショートカットにきつめの顔立ちで、Tシャツとデニムのロングスカートという、カジュアルなスタイルの先生だ。
「はい、ゆずかちゃん。よく言えましたね。ほら、みんなも、ゆずかちゃんのご挨拶に答えてあげてね」
「こんにちは!」
子どもたちは、戸惑いながらも唱和する。しかし彼らが武生を見る目は、明らかにこう言っていた。
(なんでこんな大きいお姉ちゃんが、幼稚園の服でここに来てるんだろう?)
それでも子どもたちは良くしつけられているのか、ひそひそと話すこともなく、大人しく座っている。それよりも反応が激しかったのは、教室の後ろに並んでいるお母さん方だった。隣のお母さんとひそひそと囁きあって、武生のほうを、怪しむような、おかしがるような、変な目つきで見ている。後ろから歩いてきた翠は素知らぬ顔で、そんなお母さん方のあいだに立ち、すまし顔で子どもたちのほうを眺めている。
武生は恥ずかしいのを堪えながら、教室の中に入り、席に座る。ジャンパースカートの裾を払い、背中のリボンを敷き込まないように後ろに流して、綺麗に座った。これまで何度も繰り返した手つきだ。慣れた手つきを見たお母さん方が、またひそひそと囁き合う。
しばらく待っていると、他の子どもたちが入ってきた。しかし武生と違い、先生のほうに軽くお辞儀をするだけで、挨拶も、自己紹介もしない。武生は、赤くなった。翠が言っていた、部屋にはいるときの礼儀――小山内校長から伝えられたというあの礼儀は、でたらめだったのだ。翠が面白がって嘘をついたのか、小山内校長が彼に対する罰の一つとして嘘を教えたのかは判らないが、確実なのは、ただでさえ目立っている自分がさらに目立ち、他の子どもたちや保護者から笑われる種を作ってしまった、ということだった。
いよいよ、体験授業が始まろうとしていた。