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体験入学 第二章(3)
どうも、神無月です。
エリりんさん、コメントありがとうございます。「恥辱庵」様の方でもたびたびお見かけしていましたので、お褒めにあずかりまして感激いたしております。
文月さん、良いですよね。あの制服店では、彼女の趣味で近隣の学校・幼稚園の制服はほぼ網羅しておりまして、しかも170センチサイズまで揃えています。是非お立ち寄り下さい(笑)
それでは、本日も開演いたします。
* * *
(三)
「……信じらんない……」
授業終了後、武生のそばに近づいてきた翠は開口一番こう言った。
「発音が下手とか、そういう次元じゃないじゃない。「go」の過去形は「went」よ! しかも堂々と、あいあむ、ごーしょっぴんぐ、いえすたでい……とかやるし、もう、見ちゃいられなかったわ」
ぐぅの音も出ない。武生は赤くなって、
「ごめんなさい、お姉ちゃん……」
幼稚園児、というか中学生の女の子のふりを続けたまま、大人しく答える。
授業はだいたい、そんな感じで進んでいった。流暢に、自然に、時にウィットに富んだ答えを返す子どもたちに対して、武生は母音でごつごつの英語をつっかえつっかえ返す。文法的にも、中学生で習うような所をいくつも間違えるので、他の子どもたちや後ろのお母さん方から失笑を買ってばかりだった。
他の子どもたちは、それぞれ保護者に手を引かれて、教室を後にする。子どもたちが楽しげに話題にしているのは、武生のことに違いなかった。
「あのお姉ちゃん、身体おっきいけど英語は下手だったね! ママ、あたしの方がよっぽど上手でしょ?」
そんな声が、武生の耳にも入ってきていた。
そうしてちらほらと子供の姿が消え、教室に残っている参加者が、武生と翠だけになったとき。
「ふぅん、その子がゆずかちゃんなのね」
思っても見なかった方向から、不意に話しかけられて、武生はどきっとした。
そこにいたのは、さっきまで英語を教えていた先生だ。名前は、アカネ先生。彼女は武生の方を向いて、にぃっと笑った。
「なに、面食らってるのよ。……あれ、翠、ひょっとしてあたしのこと何も言ってないのかしら?」
「もちろん。だって、その方が楽しいもの」
脇から答える、翠。そのやりとりを見て、武生はぴんと来た。
「あ、もしかして……!」
「そうよ。そこの翠ちゃんのお姉さん。大学二年だけど、臨時講師でここの英会話講師をやってるの。よろしくね」
まるで聞いていなかった。武生は恥ずかしさのあまり、今更ながら唇を噛む。ということは、いま自分が本当は高校三年の男の子であることも、知られているに違いなかった。
しかし実際は、この二人で行われたやりとりは、武生の想像のはるか上を行っていた。武生の体験入学申込書が受理されたのは、すべてアカネ――翠の姉である、酒匂茜の手回しによるものだったのである。彼女は「ある人物」の要請により、翠に指示を与えて武生に申込書を記入させ、アカネ自身はそれを強引に通して、「ある人物」の要請にこたえたのである。
つまり、武生が申込書を書いて、それが受理、当選されてしまったのは、すべてこの二人と――そしてそれを指示した、「ある人物」のたくらみによるものだったのだ。当然、小山内校長に掛け合った翠の言葉も、校長に反論されるのを想定してのものだった。
だいたい、参加を辞退するだけならば、わざわざ本当のことを明かすまでもない。急用ができたからやむを得ず参加を取りやめると、そう伝えるだけでいいはずなのだ。あえて冗談でした、許してくださいと謝ることで、小山内校長が「冗談で申し込むとは許せない、何としても参加しなさい」と言うのを見越していたのだ。
そのことは、もちろん武生は知るよしもない。せいぜい、翠がこの小学校の講師である茜とグルになって、自分を辱めようとしている、そう思いつく程度だ。
「それにしてもゆずかちゃん、可愛いわね。附属幼稚園の女児制服も似合ってるし……本当、男の子とは思えないわ」
誰もいないのを見計らって、この台詞。武生は赤くなった。
「でもあの程度の語学力じゃ、この深山には入れないわよ。せっかく可愛いのにね」
「は、入るつもりなんて……」
「あら、じゃあなんで体験入学に申し込んだのかしら? 入学するつもりでないんなら、体験入学に申し込んで他の子のチャンスを潰すなんて、ひどいじゃないの?」
小山内校長と同じ事を言う。そういわれれば、反論のしようがない。そこを突くように、
「ねぇ、ゆずかちゃんは入学を前提にして、体験入学を申し込んだのよね? ね?」
「……ゆ、ゆずか……」
「ね?」
「……は、はい、ゆずか、この小学校に入りたいから、体験入学を申し込みました……」
「うん、よろしい。……だ、そうですよ、校長先生」
驚きに目を見張る武生。アカネがさっと身体を横にすると、その後ろ、彼女の影になるように、小山内静子校長が立っていた。武生の方を見て、大きく肯く。
「そうですか。なら、是非ともこの学校を受験してください。無事、入学できる程度の学力が認められれば、書類の手続等も含めて貴方が希望通り本校に入学できるよう、尽力しましょう」
はめられた。そう気付いた武生だったが、もはやどうしようもない。茜と翠は楽しそうに笑っているだけで、口添えをしてくれる気もないようだ。絶句した彼にとどめを刺すように、
「しかし、もしも貴方が本校を受験しなかった場合……あるいは、大学などを受験した場合。虚偽の意思表示を行ったものとして、相応の手段をとります。……覚悟、しておいてくださいね」
言うなり、小山内校長は武生の返事も聞かず、ヒールの音も高らかにきびすを返した。
エリりんさん、コメントありがとうございます。「恥辱庵」様の方でもたびたびお見かけしていましたので、お褒めにあずかりまして感激いたしております。
文月さん、良いですよね。あの制服店では、彼女の趣味で近隣の学校・幼稚園の制服はほぼ網羅しておりまして、しかも170センチサイズまで揃えています。是非お立ち寄り下さい(笑)
それでは、本日も開演いたします。
* * *
(三)
「……信じらんない……」
授業終了後、武生のそばに近づいてきた翠は開口一番こう言った。
「発音が下手とか、そういう次元じゃないじゃない。「go」の過去形は「went」よ! しかも堂々と、あいあむ、ごーしょっぴんぐ、いえすたでい……とかやるし、もう、見ちゃいられなかったわ」
ぐぅの音も出ない。武生は赤くなって、
「ごめんなさい、お姉ちゃん……」
幼稚園児、というか中学生の女の子のふりを続けたまま、大人しく答える。
授業はだいたい、そんな感じで進んでいった。流暢に、自然に、時にウィットに富んだ答えを返す子どもたちに対して、武生は母音でごつごつの英語をつっかえつっかえ返す。文法的にも、中学生で習うような所をいくつも間違えるので、他の子どもたちや後ろのお母さん方から失笑を買ってばかりだった。
他の子どもたちは、それぞれ保護者に手を引かれて、教室を後にする。子どもたちが楽しげに話題にしているのは、武生のことに違いなかった。
「あのお姉ちゃん、身体おっきいけど英語は下手だったね! ママ、あたしの方がよっぽど上手でしょ?」
そんな声が、武生の耳にも入ってきていた。
そうしてちらほらと子供の姿が消え、教室に残っている参加者が、武生と翠だけになったとき。
「ふぅん、その子がゆずかちゃんなのね」
思っても見なかった方向から、不意に話しかけられて、武生はどきっとした。
そこにいたのは、さっきまで英語を教えていた先生だ。名前は、アカネ先生。彼女は武生の方を向いて、にぃっと笑った。
「なに、面食らってるのよ。……あれ、翠、ひょっとしてあたしのこと何も言ってないのかしら?」
「もちろん。だって、その方が楽しいもの」
脇から答える、翠。そのやりとりを見て、武生はぴんと来た。
「あ、もしかして……!」
「そうよ。そこの翠ちゃんのお姉さん。大学二年だけど、臨時講師でここの英会話講師をやってるの。よろしくね」
まるで聞いていなかった。武生は恥ずかしさのあまり、今更ながら唇を噛む。ということは、いま自分が本当は高校三年の男の子であることも、知られているに違いなかった。
しかし実際は、この二人で行われたやりとりは、武生の想像のはるか上を行っていた。武生の体験入学申込書が受理されたのは、すべてアカネ――翠の姉である、酒匂茜の手回しによるものだったのである。彼女は「ある人物」の要請により、翠に指示を与えて武生に申込書を記入させ、アカネ自身はそれを強引に通して、「ある人物」の要請にこたえたのである。
つまり、武生が申込書を書いて、それが受理、当選されてしまったのは、すべてこの二人と――そしてそれを指示した、「ある人物」のたくらみによるものだったのだ。当然、小山内校長に掛け合った翠の言葉も、校長に反論されるのを想定してのものだった。
だいたい、参加を辞退するだけならば、わざわざ本当のことを明かすまでもない。急用ができたからやむを得ず参加を取りやめると、そう伝えるだけでいいはずなのだ。あえて冗談でした、許してくださいと謝ることで、小山内校長が「冗談で申し込むとは許せない、何としても参加しなさい」と言うのを見越していたのだ。
そのことは、もちろん武生は知るよしもない。せいぜい、翠がこの小学校の講師である茜とグルになって、自分を辱めようとしている、そう思いつく程度だ。
「それにしてもゆずかちゃん、可愛いわね。附属幼稚園の女児制服も似合ってるし……本当、男の子とは思えないわ」
誰もいないのを見計らって、この台詞。武生は赤くなった。
「でもあの程度の語学力じゃ、この深山には入れないわよ。せっかく可愛いのにね」
「は、入るつもりなんて……」
「あら、じゃあなんで体験入学に申し込んだのかしら? 入学するつもりでないんなら、体験入学に申し込んで他の子のチャンスを潰すなんて、ひどいじゃないの?」
小山内校長と同じ事を言う。そういわれれば、反論のしようがない。そこを突くように、
「ねぇ、ゆずかちゃんは入学を前提にして、体験入学を申し込んだのよね? ね?」
「……ゆ、ゆずか……」
「ね?」
「……は、はい、ゆずか、この小学校に入りたいから、体験入学を申し込みました……」
「うん、よろしい。……だ、そうですよ、校長先生」
驚きに目を見張る武生。アカネがさっと身体を横にすると、その後ろ、彼女の影になるように、小山内静子校長が立っていた。武生の方を見て、大きく肯く。
「そうですか。なら、是非ともこの学校を受験してください。無事、入学できる程度の学力が認められれば、書類の手続等も含めて貴方が希望通り本校に入学できるよう、尽力しましょう」
はめられた。そう気付いた武生だったが、もはやどうしようもない。茜と翠は楽しそうに笑っているだけで、口添えをしてくれる気もないようだ。絶句した彼にとどめを刺すように、
「しかし、もしも貴方が本校を受験しなかった場合……あるいは、大学などを受験した場合。虚偽の意思表示を行ったものとして、相応の手段をとります。……覚悟、しておいてくださいね」
言うなり、小山内校長は武生の返事も聞かず、ヒールの音も高らかにきびすを返した。