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十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2009-09

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『月夜哉』 第一章(1)


  第一章  新月

 (1)

「じゃ、お疲れさーん」
「お疲れさんでーす」
 ぼくが友人たちに手を振ると、彼らも手を振り返してきた。しかし、すぐに彼らは新宿の人混みの中に消え、ぼくも彼らに背を向けて、駅に向けて歩き出す。
 ぼくがいるのは新宿三丁目の、飲み屋が集中する一角だ。今日は大学で同じゼミに属する“ファミリー”で、前期授業が終わった後の打ち上げに来たところだった。
 時刻は九時。学生どうしの飲み会では、ようやっと一次会が終わって、じゃあ気のあった仲間で二次会に行こうか、という流れになるところだ。しかしぼくは実家が田舎なもので、あまり夜遅く出歩くのには慣れていない。もう大学2年生、20歳になっているというのに、何ともしまらない話だと自分でも思う。
 特に新宿という街は、大の苦手だ。せめて大学近くの立川駅とか、ぼくのアパートに近い国立駅界隈ならまだしも、新宿はまさに不夜城、9時をすぎても店が閉まるどころかいよいよたけなわ、という感じで、田舎育ちにとってはしょうじき怖い。
 長居は無用とばかり、ぼくは足早に新宿駅を目指す。三丁目からだと、一番近いのは東口か新南口だ。酔った頭で、ぼくはそちらの方角に足を向けた。
 しかし、新宿の地理は不案内で、どうやら自分が駅とは逆方向に歩いてきたようだと気付いたのは、靖国通りをかなり東に行ったあたりだった。どうもなかなか駅にたどり着かないからと不審に思い、路上に建てられている地図を確認したのだ。ぼくがいるのは、靖国通りの中でも、新宿二丁目に接するあたりだった。
(参ったなぁ……)
 今からUターンして靖国通りを戻るのは、いささか面倒だった。地図を見ると、地下鉄の新宿御苑前駅が割と近い。地下鉄を使って新宿か中野に戻り、そこから国立を目指す、というルートが一番良さそうだった。
 しかし、そこに行くためのもっとも直線的なルートは、あろう事か、新宿二丁目の中心を通る仲通りを通って行くことだ。
(どうしよう……)
 冷静に考えれば、二丁目のある区画を迂回して行くのが一番安全で、手っ取り早い。しかし、ぼくはちょっと迷った。新宿二丁目と言えば、得体の知れない新宿の中でもさらに中心、百鬼夜行どころか万鬼昼行の魔窟、と言うイメージだ。
 でもまぁ、入ってそうそう取って食われもしないだろう。足早に通り過ぎれば、そう危ないことはないだろうし。何よりも早く帰りたい一念で、ぼくは次の道を右に曲がった。ここを入れば仲通り。新宿二丁目の、中心を走る通りだった。

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