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十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2009-09

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乙女座の園 第8エリア(4)


 (4)

 良介が《乙女座の園》にお客として入ったのは、当然のことながらはじめてだった。彼は新鮮な気持ちで、園内を見回した。
 入場門《Horn Gate》をくぐると、すぐ正面には煉瓦敷きの広場《Piazzale Roma》と、その中心に少年が水瓶を持った姿の石像が並ぶ噴水《Ganymedes》が見える。向こうには、遠くのエリアにあるアトラクションや、真っ白な教会が見える。
 右手に第1エリアのカフェテリア《Sweet Spirits》があり、そこからほぼ反時計回りに園の外周を取り囲むように、アトラクションやショップが連なっている。第2エリアのクルージング《Lakeside Swan》の舞台となる大きなプールと、陰に隠れるように食事処《Hime-Goten》。その隣は第3エリアで、ミュージカル《Alice in Waterland》を上演するホールが建っている。第4エリアにあるのはグッズショップ《The Grass Slipper》や、回転木馬《Merry-go-round》、大観覧車《Honey Moon》だ。
 つづいて第5エリアのフォトスタジオ《Royal Princess》、第6エリアは絶叫アトラクション《Tear of Marmaid》と、少し離れた場所にゴシックホラーハウス《Phantasmagorie》。そして広場を囲む周囲の道は、第7エリアとしてナイトパレード《Cendrillon》の舞台となり、そこかしこに小さいメルヒェンな建物群《Fairy Nest》が立ち並ぶ。
 そして正面の遠景に、白く美しい姿で佇立するのが第8エリアの建物、カテドラル《Bridal Dream》である。フォトスタジオ《Royal Princess》と同様に、綺麗な衣装を着て写真撮影をすることが出来るようになっているが、なんと言っても「ウエディングドレス風」の服を着ることが出来るのが、最大の特徴である。
 この辺りは、女性の微妙な心理をついている。ウエディングドレスはやはり綺麗だし、結婚前でも、あるいは結婚したあとでも着てみたいと思う女性は少なくない。しかし未婚の女性にとって、ウエディングドレスは結婚に際して着る特別な衣装であり、結婚前に着るなんて……という抵抗感も、若干ある。そこで「ウエディングドレス風」と称することで、これはウエディングドレスではないから着ても問題なし、という言い訳がきくようにしたのだ。
 しかもカテドラルの内部は「撮影」ブロックと「婚礼」ブロックに分かれていて、「婚礼」エリアでは、略式で結婚式の雰囲気を味わうことが出来るようになっている。二人が目指しているのは、そのうち「婚礼」ブロックへの入口だった。
 良介たちはまっすぐに進み、広場を通って噴水の前を抜け、白い教会に向かう。その道すがら、円香は楽しそうにこう言った。
「この前行ったときは、あたし、あのカテドラルで花嫁役をやったのよね。ほら、あそこにある衣装って、新郎と新婦、あとあんまり着る人はいないけど司祭の衣装が揃ってるじゃない。あたしはその中でも、新婦役だったんだ。ほかの二人が、新郎と司祭をやって、ね」
「へぇ……円香の花嫁姿、すっごく綺麗だろうなぁ……」
「うん、けっこう綺麗に撮れてて、自分でも驚いちゃった。でね、だから今回は、あたし新郎役をやりたいんだ」
「いいよ。……ってことは、私が新婦役?」
 良介はつられて返事をしたあと、思わず聞き返した。円香は笑って、
「そうだね。リサが花嫁衣装を着て、あたしのお嫁さんになるんだ。リサなら、きっと似合うよ」
「う、うん……でも、私……」
 あそこの着替えシステムがどうなっていたか良く覚えていないが、もしも男だとばれたらまずくはないだろうか? 良介の危惧も知らぬげに、円香は彼の目を見つめて、だめ押しの一言を言った。
「ね、リサ。いいよね? あたしのお嫁さんになってほしいんだ。今日限りのことじゃなくて、これから先も、ずっと」
「え……? え? それって……!」
 円香の手が、良介の手に重なる。円香は真剣な目で、良介の目をのぞき込んでいる。
 良介は思わず目を伏せた。それは本当に、突然のプロポーズに当惑し、恥じらいながらも肯く、若い女性のような仕草だった。

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