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十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2009-09

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乙女座の園 第8エリア(3)


 (3)

 そこまで言われてしまった以上、どうして女装を拒むことが出来るだろう?
 結局こうなるんだな、と思いつつ、良介はスカートの裾をつまんだ。白いノーマルスカートに、紺のラインが2本入っている。七分丈のシャツも、フェミニンではなかったが、男物ではありえないデザインだ。しかしどちらも、いままで仕事で着せられた服の数々に比べれば、だいぶ気楽だった。
 喫茶店を出た2人は、途中でもう一度ショップに立ち寄ったあと、駅前のカラオケ店に入った。そして良介は個室で、いまさっき購入した女性用の服に着替えた。バッグも中身を交換して、良介が円香のショルダーバッグを持ち、円香が良介のハンドバッグを提げる。顔に若干の化粧を施せば、一見した限りでは男だとばれない程度には、女性的な容姿になる。
「リサってば、本当に似合ってるね。あたしより女っぽい?」
「そんなこと無いって。化粧してるからだよ」
「うーん。でも、やるとなったら本格的ね。下着まで揃えるなんて」
「だってスカートの下にトランクスとか穿いてて、スカートのヒップにラインが浮くとまずいし」
 良介は溜息をついて、カラオケ店の女子トイレで鏡を見返す。ここに来る前に寄ったショップで、ブラジャーとショーツ、ストッキングを購入してもらったのだ。ブラウスやスカートの下には、ちゃんと女性用の肌着を身につけている。
 男物の腕時計はそのままだが、いまの良介を見て男性だと看破できる人間が、果たしてどれだけいるだろう。鏡の前でポーズをとり、良介は自分の仕上がりに、ちょっと満足していた。
 もちろん、円香の話を聞いただけで、すぐに女装に対する忌避感が無くなったわけではない。しかし、女装を恥ずかしいと思うことそれ自体への後ろめたさや、円香に「魅力的だ」と言ってもらえたことから来る喜びが、彼の心理に微妙な変化をもたらしたことも、また事実だったのである。簡潔に言えば、深層心理にあった女装時の安らぎと、女装に対するごくわずかな喜びとを求める感情が、女装を拒否できない理屈によって正当化されたのだった。
(恥ずかしいけど……でも、女装を恥ずかしがるってことそのものが、おかしいんだよな……)
(それに円香も……僕のことを、女装しているときの方が活き活きしている、って言ってくれたんだし……もしかして、いままで僕に女装させていた社長も、同じ事を感じていたんだろうか……)
 もっとも、たとえそうであるにしたって、黒谷社長から言われた時には、単に女装させるために方便だとしか考えなかったのだが。円香に言われるとあっさり納得するあたり、彼自身は気付いていなかったが、けっこう現金なのだった。
 良介が着ていた服は、いま円香が持っている、良介のバッグの中に入っている。円香は彼を見て、にっこり笑った。
「ね、これからあたしがどこに連れて行こうとしているか、判る?」
「うん。だいたい想像はつくかな」
「さすがリサね。じゃあ、行きましょ」
 二人は打ち合わせもせずに、カラオケ店をあとにした。
 その後ろで、受付の女の子が、(あれ、あの部屋は確か男女のカップルで入ったような……)と、狐につままれたような顔をしていた。

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