2ntブログ

十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2009-10

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『月夜哉』 第一章(6)

 神無月です。
 新作に時間をとられて、『月夜哉』はすっかり放置状態でしたが、また再開いたします。お久しぶりなので、少し長めとなっております。 

 (6)

 先ほど男性から犯されるという屈辱を受けたばかりだが、それでも横たわるぼくの目の前におかれたその服を身につけるのには、果てしない抵抗があった。さっきはまだ、力ずくで犯されたのだという言い訳がきく。しかし、自分の手で女の服を着なければならないとなれば、話は別だ。
「これ……を……?」
 ぼくの言葉に、嫦娥も我道も返事しない。愚問だ、とでも思っているようだった。
 色は白。広く開いた襟ぐりに、ピンクのサテンリボンを通したフリルがあしらわれている。裾こそ長いものの、袖はなく、着るとおそらく肩まで露出する。女性だって、今どきこんなものを着て寝る人は少ないだろう。
「何で、こんなものを……?」
 言いながら、ぼくは悟っていた。裸で連れ回されるのは確かに屈辱的だし、つらい。しかし裸であっても、それは男性であることを維持したままでの恥ずかしさだ。
 衣服という、アダムとイブが恥に目覚めて以来、人類がずっと身にまとっていたものを剥ぎ取られ、まるで獣のような姿で人目に晒される恥ずかしさ。しかしそれは、男性であることを維持したままの恥ずかしさだ。
 一方、ぼくに求められているのは、「男でありながら女の服を着る」ことだ。男性でありながら、それを自らで否定する行為。「俺は男なんだ! こんな、女の服なんか着られるか!」そう、大声で叫びたい。しかし──
「どうした? まさか、俺は男だからそんなものは着られない、なんて言わないよな。ついさっきまで散々犯されて、ろくな抵抗も出来ずに悲鳴を上げていた石和君?」
 ぼくは言い返すことも出来ず、黙り込んだ。石和──石和裕孝(いさわ ゆたか)。それがぼくの本名だ。どうやら財布の中に入れてあった身分証か何かから知られたらしい。いや、そんなことはどうでもいい。問題なのは、このタイミングで本名を出されたせいで、ぼくにはもう何ら反論の余地がなくなってしまった、と言うことだ。
 石和裕孝は、男性に力ずくで犯された。抵抗も出来ず、ただ悲鳴を上げて、自分に降りかかる男性からの暴力を受け入れた。その事実を真正面から向けられたのだ。
 ぼくにはもう、男性としてのプライドを感じる資格はない。たとえ砕け散ったプライドのかけらが、ぼくの中で軋んだ音を立てようとも。
 ゆっくりと、ネグリジェを手に取る。もと着ていた服はとっくに脱がされて、ぼくは素裸でベッドに横たわっている状態だ。諦めてネグリジェを身につけようと、上体を起こそうとしたときだった。
「ぅあッ!」
 いきなり、腰の奥が激痛を発した。どうやら肛門の筋肉が半ば裂けているらしく、凄まじい痛みを発しているのだ。
 ぼくはうめき声を上げ、ベッドに倒れ込んだ。
 それを、我道と嫦娥は冷ややかな目つきで見つめている。これを着るまで、彼らは決して許してくれないだろう。そう思って、ぼくが再び上体を起こしかけたときだった。
「やめとくか」
 我道はそう言って、ベッドの上からネグリジェをつまみ上げ、嫦娥に放った。嫦娥は怪訝な顔で、
「あら、どうしたの。やめちゃうなんて、あなたにしてはお優しいじゃない」
「そうか?」
 我道は蛇のような目つきで笑い、ぼくを見た。まるで、一番旨い獲物は最後まで取っておこうと言わんばかりに、
「いまの様子だと、初めて女の服を着るのだけでも見るだけでも、なかなか楽しめそうだ。俺たちだけで見るのは勿体ないくらいにな。だからさっさと身体をなおしてやって、舞台ではじめて女の服を着せてやろう。
 久々に復活した“ハヅキ”のデビューだからな。どうせなら、女装に羞じらう姿を初めから味わいたい、って客も多いはずだ。その路線で行こうって言えば、ミチナガも納得するだろう」
「あなたもよくよく悪趣味ね」
 嫦娥はくすくす笑い、ネグリジェをバスケットにしまう。
 ぼくは嫦娥の台詞に、内心で全面的に同意した。要するに、女装経験なんか全くないぼくを、いきなり衆人環視の舞台に上げて、そこで初女装をさせ、恥ずかしがる姿を酒席に供しようというのだ。悪趣味もいいところだ。
 それでもぼくには、反論するだけの気力も、体力も、権限もない。ただじっと黙って、腰のあたりに感じる“スレイブ”としての烙印の痛みに、耐えているしかなかった。

 | HOME |