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十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2009-06

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乙女座の園 第2エリア(5)


(5)

 スカートにもいい加減慣れてきたが、やはりあのタイツの感触には慣れることができない。肌にぴったり張り付き、動くたびにするすると肌を刺激する。普通なら男性が味わうことのない感覚だと意識してしまい、自分がどれほど非日常的な服を着ているかを思い出す。しかもそれを、数十人の人目にさらしているのだ。恥ずかしくないわけがない。
「みなさまこんにちはーっ! 本日は、《乙女座の園》にご来園いただき、まことにありがとうございまーすっ!」
 声を張り上げる良介を、遊覧船に乗り込んだお客さんが見る。遊覧船は早くも動き出して、園内のプールをおよそ20分かけて一周する、周遊の船旅に出る。
 実際にはこの船、ごくごく浅いプールの上に張られたレールをたどって、あたかも水面を進んでいるように見せているだけなのだ。本当に水面を走る構造の船だったら、もっと大きな船でないと安定しないし、第一うるさくて仕方ない。しかもどんなにしっかりした船だろうと揺れるので、船酔いを起こしてしまう。
 よほどののんびり屋さんでなければ気付く事実。しかし、こんなところで口にするのも野暮の極みなので見て見ぬふりをする、そんな大人の態度で、何とか夢の国はもっている。
 そんな虚飾と幻想に満ちた《Lakeside Swan》だが、添乗員の衣装は本物だ。
「こちら、園内の湖を巡遊する遊覧船でございます。さて皆様、湖と言えば白鳥、白鳥と言えば湖。こちらの《Lakeside Swan》も、そんな皆様の夢をかなえるための乗り物です。ご覧ください。今はまだ、生まれたての白鳥。その姿は決して美しいとは言えません」
 湖の右手に、白いアヒルの雛たちと、その後ろで灰色の白鳥の雛がいる。白鳥の雛はアヒルの雛に混じることができず、後ろのほうでさみしそうだ。
 そんな雛たちと並走しながら、《Lakeside Swan》は進んでいく。
 こうなると、良介は少し安心する。お客さんが、自分だけを見ることはないからだ。
「アヒルの雛たちの中、白鳥は自分の姿の醜さに悲しみ、アヒルの雛にいじめられて嘆きます。やがて群れにいられなくなった白鳥の雛は、あちこちの群れに入れてもらおうとしますが、いつも追い出されてしまいます」
 良介の説明が続く中、アヒルの群れと、白鳥の雛が、行ったり来たり、近づいては離れ、離れては近づく。
 やがて白鳥の雛が、次第に大きくなる。これがこの《Lakeside Swan》の目玉の一つだ。実はこの白鳥の雛、軽量な骨組みのなかに風船を入れた特殊なもの。大きくなるに従って、色がだんだん白く変わる。空気圧と布の折り込みを利用した、ちょっとした仕掛けだった。
 単純といえば単純な仕掛けだが、乗客は歓声を上げて驚く。やがて風船は、雛から白鳥にシルエットを変える。そして空気を入れる部分が閉じられ、機械から切り離されると、白鳥の形をした真っ白な風船が空高く飛んで行く。それを見たお客さんの歓声とともに、添乗員は説明を終える。後は彼らが好き勝手に、《乙女座の園》の風景を楽しむのだ。
 クルーズが終わり、とりあえず良介はお客さんが降りた後、交代して休憩に入る。さすがにこれは疲れるので、2人交代で行うのだ。休憩室に入って鏡を見ると、改めて自分がどんな姿をしているのか実感し、
「うっ……」
 良介は、軽く股間を押さえた。タイツを穿いたときに感じるのは、恥ずかしさばかりではない。太もものような敏感な場所をくすぐられる感覚に、性的な興奮を覚えてしまう。
 しかしお客さんの前では、可能な限り押さえなくては。女性であるはずの添乗員が勃起しているのがばれたら、何もかもぶち壊しになってしまう。
 女性たちの中に混じった、一見女性のような良介。それはさながら、アヒルの群れに交じった醜い雛だ。外見はほかの雛たちと変わらないが、中身はまるで別種の生き物。正体がばれようものなら、即座に群れから追い出されるほどの異物だ。
 良介の脳裏を、大きく膨らんで白鳥に変わった、風船のシルエットがよぎった。いつか自分もあのように、白鳥になるのだろうか。
 だがそもそも、白鳥になるとはどういうことを意味するのだろう。良介の疑問にこたえるものはなく、彼は静かに、次のシフトを待った。

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