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十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2009-06

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乙女座の園 第3エリア(3)

 今日はちょっと長めです。。。

 * * *

(3)

 翌日。
 そのパンツスタイルで出勤したところで、良介はさやかに遭遇した。
「あれ? りさちゃん」
「あ……滝さん」
 二人がいる場所は《乙女座の園》の従業員用通用口を抜けた更衣室。廊下の両脇にずらりと個室を並べた、殺風景な場所だ。その通路で、良介はさやかに見つかってしまった。
「ふぅん、可愛いじゃない。すっかり女性ね」
「違いますから」
 反論するが、彼の格好を考えれば説得力はない。パンツスタイルといっても女性用の美脚ラインで、ブラウスの襟元には小さなフリルが付いている。
 そんな彼をにやにやと笑いながら、さやかは彼の腕をとった。そのまま、彼の更衣室とは別の部屋に引きずっていく。
「あたし、部署替えされたのよ。本当ならウェイトレス長として働き続けたかったんだけど、上の人が、あなたの能力を見込んでどうしてもって」
「それはおめでとう。……で、代わりに俺にウェイトレスをやれとでも言うつもり?」
「そんなこと言わないわよ。いいから来て」
 連れ込まれたのはさやかの更衣室。広さ一畳ほどでロッカーと小さな机があるだけの、こちらも殺風景な個室だ。彼女はそのロッカーから、ブルーのワンピースを取り出した。
「見て。これよ。明日から始まる新イベント。その名も、《Alice in Waterland》の衣装よ」
 《Alice in Waterland》。「水の国のアリス」とでも訳そうか。アリスの冒険を、海の底にある世界に移してリメイクした短編ミュージカルだ。来場者はちょっとしたホールに入り、そこで大がかりな舞台装置を相手にはね回るアリスの姿を見て楽しむ。
 アリス役は若い女の子でなければ務まらない上に、演技力と舞台度胸も要求される。そのため、今回雇ったアルバイトの中から見所のありそうな人を抜擢して、役につけることとなっていたはずだ。その点、さやかならぴったりだろう。良介が大いに納得したとき、
「じゃありさちゃん、ちょっと着てみなさい」

 遊覧船《Lakeside Swan》は、18時で終わりを告げる。理由は2点。乗り物の性質として、歩き疲れた来園者が入口まで戻るためのものではないことと、暗くなると、アヒルや白鳥の雛たちが見えにくくなるからだ。
 そんなわけで18時のラストクルーズを終えた良介は、朝にさやかが指定した場所に向かった。
 来るように指定された場所は、《Fairy Nest》と呼ばれる装飾用の建造物。一見飾りに見えるが、実は更衣室としても使用されているパステルカラーの小屋だ。
(いや、今からシフト入ってるし無理だって!)
 あの時、手を振って拒絶する良介の返事を見越していたように、さやかは平然と答えた。
(そう。なら、そっちが終わったら第3エリアの《Fairy Nest》に来なさい。確か18時には終わるわよね?)
 それでも嫌だとは言えない。ウェイトレス時代に、さやかの命令に従うようすり込まれてしまったからだ。だからこうして、
「有沢くんなら、名前もぴったりだもの。似合ってるわよ」
 と言われても、逆らうことはできないのだった。良介はワンピースを着たまま、軽く唇を噛んだ。
 ブルーを基調にした、丸襟のワンピース。そのデザインはジョン・テニエル描く『不思議の国のアリス』のアリスが着ている服をオリジナルに、さらに可愛い装飾を加えたものだ。丸襟にはブルーのラインとレースがあしらわれ、襟元には大きなリボンを結ぶ。ワンピースの前にはくるみボタンがつけられていて、その両脇にはタックが入っている。裾にもタックを入れたスカートは、下にパニエをしこんでいるので、大きく広がって、優美なラインを演出している。
 足は水色の平べったい革靴に、足首で綺麗に折ったソックス。頭にはおおきなリボンのカチューシャ。どこまでも女の子らしさを演出する、可愛いセットだ。
 小さい女の子なら喜ぶかも知れないが、20過ぎの男性が着るにはいささかきついデザイン。それでもさやかは、アリス風ワンピースを着た良介を愉しげに眺め、こう言った。
「やっぱり似合うわね。うん。これなら安心して任せられるわ」
「……ま、任せるって何を?」
 怯えた顔で、良介は尋ねる。ただ単に、自分にアリスの格好をさせて楽しんでいるだけではないのか。そんな彼に、さやかはむしろ不思議そうな顔を向けた。
「りさちゃん……ひょっとして、このあと何があるか知らないの?」
「え……」
 良介は戸惑いながら、必死で思い出そうとする。次の瞬間、
「あ! 《アリスのお茶会》!」
 《Alice in Waterland》開演前日に当たる本日、宣伝をかねたトークショー《アリスのお茶会》が開かれる。場所は《Sweet Spirits》で、ちょうど19時からスタート。原宿のロリィタファッションショップから二人のゲストを招き、大勢のギャラリーの前でお茶会としゃれ込むのだ。
 出演者は本来ならば、当然、明日以降アリス役をやるさやかである。しかし当のさやかは良介を見たまま、彼の服を脱がせようとも、自分が予備の服を着ようともしない。
「滝さん、あと30分しかありませんよ! 早く着替えてください!」
「何言ってるの。りさちゃんが出るのよ。あ、もうすぐ打ち合わせだから、早めに控え室に行かないとね。もうゲストのかたはいらっしゃってるはずだし」
「やだ、待ってくださいよ! 何で私が……」
「さっそく女の子モードスタンバイ。問題ないわね、行きましょ」
 こうしていつものパターンで、良介はまた1つ、男性としての自意識を削り落とす場に連行されていく。

乙女座の園 第3エリア(2)

 リンクに、合丼来来様の運営する「オシッコオモラシ漫画・オムツシーン収集所・フェチ小説用データベース」を追加いたしました。興味のある方は、どうぞお立ち寄り下さい。

 さて、本日も開幕っ。

 * * *

(2)

「まぁ、客を取られた腹癒せに、徹底的に調べたからね」
 良介は慎重に答えた。彼女の話がどちらに向かうのか、およそ見当がつかなかった。円香はまたしても、話題を変えた。
「ねぇ、有沢くんって、妹さんとかいる?」
「いないけど……何で?」
「だから、有沢くんに似た人がいたんだって。女の子の従業員でね、すっごく可愛い服着てたの。顔も可愛かったから、凄く似合ってたなぁ」
「俺に似てたら可愛くないと思うけど」
「そんなこと無いわよ。だって大学の時だって、有沢くんに女装させたらさぞ似合うだろうなって、結構話題だったもの」
 あの頃そんなことを話してたのか。良介はがっくりと脱力した。
「……こほん。で、そういえば月織さんは何してるの? 院?」
 そう言ったのは話を逸らすためと、円香が研究職を目指しているのを知っていたからだ。しかし彼女は首を振って、
「ううん、いまは働いてるの。本当は院に行きたかったんだけど、家庭の事情で、ね」
「……、悪いことを聞いちゃったかな」
「いいのよ。それよりも、そのうち会えない? 私は週末なら、割といつでも大丈夫だから」
 良介はぎょっとした。かつての学部一の美人から、「会えない?」と誘われたのだ。今の姿はさておいて、普通の男性である良介にとっては魅力的なお誘いだ。
「うん、俺の方も、久しぶりに会いたいな。土日なら……あ、今週は無理か。来週末なら何とか」
「じゃあ、日曜日にしましょ。場所と時間は、前の日に知らせるわ。直前まではお楽しみで」
「オーケー。月織さんを信じて任せるよ」
「ありがと、決まりね。楽しみにしてる」
「うん。こちらこそ」
 その後少し、互いの近況や知人の消息などを話した後、電話を切った。
 ふぅ、と溜息をついた後、良介は食事を再開する。しかし、落ち着かない。円香から電話が来たせいで、自分が男であるという自覚が急速に戻ってきたのだ。男性ならすることのない化粧と服装が、女装したての頃のような違和感を訴える。
 やむなく彼は、食事を中断して風呂に入り、化粧を落として寝間着に着替えた。明日からまた、あんなOL風のスタイルで出勤するのか。綺麗にハンガーに掛けられたジャケットとスカートを見ながら、良介は、明日はせめてパンツスタイルで出勤しようと決意した。

乙女座の園 第3エリア(1)

 どうも、神無月です。

 最近いろいろと思うところがありまして、「強制女装」というジャンルを見つめ直してみたいなという気持ちが強くなってきています。
 何故「強制的に女装させられる」事に対して、喜び、あるいは屈辱を覚えるのか。
 そのあたりを考えないまま、色々と「強制女装」にカテゴライズされる作品を書き散らしてきていたので、ここで一つ、見つめ直すのもいいかな、と思います。

 あ、「乙女座の園」はきちんと終わらせるつもりなので、そちらはご安心下さい。ですが、「乙女座の園」でも、「強制女装」そのものについて考えて見たいと思いますので、今後ともよろしく。

 前置きはこのくらいにして、それでは開幕っ。

 * * *

 第3エリア ミュージカル《Alice in Waterland》

(1)

 自宅マンションに帰り着いたとき、良介はぐったりと玄関に伏した。
 《Lakeside Swan》の添乗員を行うこと3日。最近では女子高生ではなく、会社本部から派遣された社員として《乙女座の園》で働いている。そのため彼は、今日もボウタイ付きブラウスにグレーのプリーツスカートとジャケット、というOLスタイルで通勤している。
 ここまで強制されれば自分でもある程度気を使わなければみっともない。いや、みっともないのは良いが、男だとばれると色々困る。そんなわけで、最近では髪にスチームアイロンをかけてウェーブをつけたり、化粧をしたり、クレンジングや化粧水にも気を使ったり……と、本当に女の子のような気の使い方である。
 しかし自分は男であり、こんな女性のような格好をしていると違和感を覚える。こうして家に帰ってくると、「まずは男に戻らなくちゃ……」という感覚に陥るのだ。
「あー、疲れたぁ……」
 完全に男モードで、良介はハイヒールを脱ぎ、廊下に上がる。ジャケットを脱いで部屋のハンガーに掛け、お風呂にするか、食事にするか悩んだ後、食事をすることに決める。……これだって、かなりの進歩だ。留美によってOLの通勤スタイルを強制されて数日は、帰宅したらまず最初にすべて着替え、化粧を落としてからでないと、食事をする気さえ起きなかったのだから。逆に、だんだん慣れていく自分が怖い。
 朝のご飯の残りをレンジにかけ、肉屋で買ったコロッケと、即席のコンソメスープを出す。箸を付けようと思ったところで、携帯電話の着メロが鳴った。
 ハンガーに掛けたジャケットから携帯をとりだして、蓋を開ける。画面を見ると、電話番号は表示されているが、名前は出ない。だれだろう。とりあえず通話ボタンを押して、電話に出る。
「はいもしもし、有沢ですが」
 最近では、外で女装しているときに電話がかかってくると、本当に女の子のような声を出して受け答えする癖がついていた。
 それを考えると、家にいるときにその電話がかかってきたのはまさに僥倖だった。何せ相手は、
「もしもし。あたし、月織だけど……、って言って、判る?」
「あ……お久しぶり。うん、判るよ」
 月織円香。数日前に《乙女座の園》で邂逅を果たし、しかし良介は正体を明かさぬまま、他人のふりを貫いた相手。いくら仕方のないこととはいえ、ちょっと後ろめたい。
 同時に、いま彼女と電話越しに話している自分が、フェミニンなOLの通勤スタイルで、化粧も落とさぬまま食事をしていることに、強い背徳感を覚えた。
 それでもあえて何事もないかのように、良介は話を続ける。
「久しぶりだね。去年の追いコン以来かな? 元気だった?」
「ええ。元気よ。……ねぇ、有沢くんはいま、何してるの?」
「うーん、小さなイベント企画会社にいる。小さなところだけどね」
 月織さんは? と尋ねようとしたところで、さらに彼女から質問がとんだ。
「なら、《乙女座の園》って知ってる? 最近オープンしたテーマパーク。神奈川県にある」
「い、あ、もちろん。凄い人出だったらしいね。初日からかなり繁盛したらしいよ。うちの課長も悔しがってた。大型連休、あっちにだいぶ人をとられたから、うちで組んだ企画の来場者が、予想を下回っちゃったんだ」
「それは残念ね。あたしもそこに行ったくちだから、あまり言えないけど」
 くすくすと、円香は笑った。昔と変わらぬ、玲瓏たる声だ。
「で、そこでね。有沢くんによく似た人を見かけたのよ。だからどうしてるかなって、少し気になったんだけど」
「そ、それはどうも。……あれ、っていうかあのテーマパーク、確か男子禁制でしょう?」
「あら。……よく知ってるわね」
 円香の声が、少し低くなる。良介の背筋が、ぞっと寒くなった。

乙女座の園 間章3


 間章三 建物群《Fairy Nest》

 《Sweet Spirits》の中を、カッターシャツにデニムのジーンズを着た、一見女子大生風の来園者が歩いている。そのまま店を出ようとしたところで、不意に、ウェイトレスの少女が、来園者の目の前に立ちはだかった。
 目の前に仁王立ちしたウェイトレスにおびえた来園者。ウエイトレスに何か話しかけられると、来園者は急に大人しくなった。そのまま彼女に連れられて、店の外に出て、脇にある小さな建物の中に入る。
 二人が入っていった建物は、とんがり帽子が可愛い、明るい色彩のもの。いかにもテーマパークという感じの現実感のなさを漂わせていて、中に何か実用的な施設があるとはとても見えない。
 しかし入っていくと、そこは、小さな更衣室になっていた。この園内には、あちこちに意味のない飾り用の建物を建てる一方、いざという時にすぐにほかの部署に応援に行けるように更衣室としても使用できる設備になっているのだ。
 更衣室の一室に来園者を連れ込んで、ウエイトレスは愉しげににやりと笑った。ウエイトレスが指示すると、彼女の目の前で、怯えた顔の来園者は服を脱ぎ始めた。シャツを脱ぎ、裸の胸にブラ一枚になる。
 それを見て、ウエイトレスがにやりと笑った。ブラの下はすかすかで、どう見ても男の胸だ。顔、体型ともに一見女性としか見えないが、この来園者は男性だったのだ。
 さらにジーンズを脱がされ、その下から女物の下着が現れる。顔を真っ赤にしてうつむく来園者に、ウエイトレスは別の服を手渡す。来園者は顔を真っ赤にして彼女に許しを請うが、彼女は容赦なく、室内の電話に手を伸ばしかける。あわてて来園者は、ウエイトレスの渡した服を身につけ始めた。
 オレンジのプリーツスカートは、短いスパッツと一体になっているため超ミニ丈。ボックスプリーツの下は、さらに濃いオレンジの切替えになっているので、可愛さというか、幼さというか、とにかく女の子らしさが強調される。上に着るのはオレンジ色のシャツで、こちらは襟と胸ポケットが濃い色で縁どられている。さらに、同色のキャップをかぶり、靴さえもオレンジ色のスニーカーで統一すれば、《乙女座の園》の案内を行うスタッフの制服が完成する。
 着終わって、真っ赤になる来園者。ウエイトレスはそんな彼をにやにやと見下ろす。来園者を見るところ、真剣に恥ずかしがっているあたり、どうやら自らの趣味ではなく、単に罰ゲームか何かで入ってきただけのようだ。だが、ウエイトレスはそんなことお構いなしに、彼を更衣室の外に引きずり出していった。
 この日の午後いっぱい、ある入場案内スタッフの女の子がシフトから外されたが、《乙女座の園》は平常通りに営業した。

乙女座の園 第2エリア(5)


(5)

 スカートにもいい加減慣れてきたが、やはりあのタイツの感触には慣れることができない。肌にぴったり張り付き、動くたびにするすると肌を刺激する。普通なら男性が味わうことのない感覚だと意識してしまい、自分がどれほど非日常的な服を着ているかを思い出す。しかもそれを、数十人の人目にさらしているのだ。恥ずかしくないわけがない。
「みなさまこんにちはーっ! 本日は、《乙女座の園》にご来園いただき、まことにありがとうございまーすっ!」
 声を張り上げる良介を、遊覧船に乗り込んだお客さんが見る。遊覧船は早くも動き出して、園内のプールをおよそ20分かけて一周する、周遊の船旅に出る。
 実際にはこの船、ごくごく浅いプールの上に張られたレールをたどって、あたかも水面を進んでいるように見せているだけなのだ。本当に水面を走る構造の船だったら、もっと大きな船でないと安定しないし、第一うるさくて仕方ない。しかもどんなにしっかりした船だろうと揺れるので、船酔いを起こしてしまう。
 よほどののんびり屋さんでなければ気付く事実。しかし、こんなところで口にするのも野暮の極みなので見て見ぬふりをする、そんな大人の態度で、何とか夢の国はもっている。
 そんな虚飾と幻想に満ちた《Lakeside Swan》だが、添乗員の衣装は本物だ。
「こちら、園内の湖を巡遊する遊覧船でございます。さて皆様、湖と言えば白鳥、白鳥と言えば湖。こちらの《Lakeside Swan》も、そんな皆様の夢をかなえるための乗り物です。ご覧ください。今はまだ、生まれたての白鳥。その姿は決して美しいとは言えません」
 湖の右手に、白いアヒルの雛たちと、その後ろで灰色の白鳥の雛がいる。白鳥の雛はアヒルの雛に混じることができず、後ろのほうでさみしそうだ。
 そんな雛たちと並走しながら、《Lakeside Swan》は進んでいく。
 こうなると、良介は少し安心する。お客さんが、自分だけを見ることはないからだ。
「アヒルの雛たちの中、白鳥は自分の姿の醜さに悲しみ、アヒルの雛にいじめられて嘆きます。やがて群れにいられなくなった白鳥の雛は、あちこちの群れに入れてもらおうとしますが、いつも追い出されてしまいます」
 良介の説明が続く中、アヒルの群れと、白鳥の雛が、行ったり来たり、近づいては離れ、離れては近づく。
 やがて白鳥の雛が、次第に大きくなる。これがこの《Lakeside Swan》の目玉の一つだ。実はこの白鳥の雛、軽量な骨組みのなかに風船を入れた特殊なもの。大きくなるに従って、色がだんだん白く変わる。空気圧と布の折り込みを利用した、ちょっとした仕掛けだった。
 単純といえば単純な仕掛けだが、乗客は歓声を上げて驚く。やがて風船は、雛から白鳥にシルエットを変える。そして空気を入れる部分が閉じられ、機械から切り離されると、白鳥の形をした真っ白な風船が空高く飛んで行く。それを見たお客さんの歓声とともに、添乗員は説明を終える。後は彼らが好き勝手に、《乙女座の園》の風景を楽しむのだ。
 クルーズが終わり、とりあえず良介はお客さんが降りた後、交代して休憩に入る。さすがにこれは疲れるので、2人交代で行うのだ。休憩室に入って鏡を見ると、改めて自分がどんな姿をしているのか実感し、
「うっ……」
 良介は、軽く股間を押さえた。タイツを穿いたときに感じるのは、恥ずかしさばかりではない。太もものような敏感な場所をくすぐられる感覚に、性的な興奮を覚えてしまう。
 しかしお客さんの前では、可能な限り押さえなくては。女性であるはずの添乗員が勃起しているのがばれたら、何もかもぶち壊しになってしまう。
 女性たちの中に混じった、一見女性のような良介。それはさながら、アヒルの群れに交じった醜い雛だ。外見はほかの雛たちと変わらないが、中身はまるで別種の生き物。正体がばれようものなら、即座に群れから追い出されるほどの異物だ。
 良介の脳裏を、大きく膨らんで白鳥に変わった、風船のシルエットがよぎった。いつか自分もあのように、白鳥になるのだろうか。
 だがそもそも、白鳥になるとはどういうことを意味するのだろう。良介の疑問にこたえるものはなく、彼は静かに、次のシフトを待った。

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