2ntブログ

十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2009-04

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

体験入学 第三章(3)

 (3)

 テレビがCMに入り、武生はふと現実に戻る。いつの間にか知香がいなくなっていて、どうやら二階に上がったようだ。自分の部屋で何かしているのだろう、ばたばたと音が聞こえる。この暑いなかご苦労だなぁ、とか思いながら相変わらずぐったりしていると、またもやリビングのドアが音を立てて開いた。反射的に振り返った武生は、そこに立つ妹の姿に思わず絶句する。
「…………、なんだそりゃ」
「覚えてない? 昔あたしが買ってもらって、兄ぃにバカにされたドレスよ」
 妹は、にっこり笑う。彼女が着ていたのは、ピンクのサテン生地で作られた、裾の長いお姫様ドレス。テーマパークの「お姫様に変身」などのコーナーで子供に着せて写真を撮るために、本当にかわいらしさだけを追求したドレスである。全体的にピンクだが、胸元や、ドレスの裾についたドレープにあしらわれたリボンには、より濃いピンクが使われている。
 しかしサイズが合っていない。ただでさえ四年前に買った一五〇センチサイズのものがぴったりなはずはないのに、水泳によって鍛えた彼女の身体は筋肉が発達して、可憐なお姫様ドレスを着るにはいささか無骨である。知香は悲しそうに、ドレスの裾をつまんだ。
「キャラクターショップでせがんで買ってもらって、でもお兄ちゃんから似合わねぇって言われて、結局一回しか着なかったシンデレラドレス。……仕方ないわよね。私、シンデレラじゃないもん。ガラスの靴だって、もう入らなくなっちゃったしね」
 いきなり始まった、昔話。妹が何を考えているのか、武生は全くついていけない。そんな彼の目の前で、知香は背中のファスナーに手を回し、一気にそれを引き下ろした。
「な、なにするんだ!」
 いきなり脱ぎ始める妹に、慌てる武生。知香はドレスを脱ぎ、先ほどまで着ていたルームウェア姿になる。直接、上に着ていたのだ。
 自分の脱いだドレスを、知香は兄に向かって放る。思わずそれを受け取ってしまった兄に、彼女はうっすらと笑いかけた。
「このドレスはあたしには似合わないから、似合う人に着てもらおうってだけのことだよ、兄ぃ」
「え……えええぇぇぇーっ!」
 武生は仰天した。何でそういう話になるのか。妹よりも自分のほうが可愛いとか、ドレスが似合うとか言ったつもりは毛頭ない。なら何で――。
「大丈夫よ、園児服が似合う兄ぃだもん。お姫様ドレスだって似合うわ」
「!」
 彼はぎくりとして、妹を見る。いつばれたのだろう。さっきまでは、いつも通りだったはずだ。焦る兄に対して、妹は全く容赦なく言いはなった。
「いいから着なさいよ。……幼稚園児のフリして小学校に体験入学したなんて、パパとママが聞いたら、なんて言うかしら? はい、下着はこれね。あたしのお古」
 やはりばれていた。翠から聞いたとは思えないから、おそらく知香自身が、何かを見つけて確信したのだろう。自分の部屋に隠してある、あの女児制服か何かを。
 そうなれば、否応もない。武生は妹の目の前で裸になったあげく、妹がはき古した女児用下着を身につけるという、変態的な行為を強制された。しかし知香は、兄の裸を見ても恥ずかしがるどころか、平然と彼の下腹部を見ていた。武生は、自分の知らない妹の一面をかいま見た気がした。
 武生にとって、知香は唯一のまともな家族だった。いや、まともな家族だと思っていた。会社で失敗を重ねながらも、ありもしない父親の威厳とやらにしがみついて威張り散らす、みっともない父親。毎日夜遅くまでパチンコに明け暮れ、金がなくなれば台所で酒を飲み、家事もしない、働きもしない母親。そんななか、武生と家事を分担して、何とか日常生活を営めるようにしている妹は、彼にとって唯一の気を許せる家族だったのだ。
 しかしその幻想も、もはや崩れ去った。武生は唯々諾々と、妹の命令に従うしかない。彼は妹が差し出した下着を手に取った。
 それはイチゴ柄のショーツに、お揃いのジュニアブラだった。武生はショーツを穿き、続いてブラに取りかかる。ストラップに腕を通さず、いったん前後逆にしてホックを留めたあと、くるりと半回転させてカップを前にする。そして腕を縮めるようにして、ストラップを方に引っかけた。この着用方法は、翠との「特訓」のなかで、何回か練習させられていたのだ。
 しかし妹は兄の様子を見て、当然の反応をした。冷たい目つきで、こう言ったのである。
「そんなにあっさり、女の子でも恥ずかしいようなデザインのショーツを穿くなんて……しかもブラをつけるの、凄く慣れてるじゃん。……兄ぃってば、とんだ変態だったのね」
 武生は一言もなく、顔を赤くして黙り込んだ。

 | HOME |