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十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2009-07

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乙女座の園 第5エリア(2)

 ゆうゆ様、コメントありがとうございます。ご期待下さる方がいるだけで、作者冥利に尽きます。
 最近更新が滞りがちなのは、忙しいのもありますが、モチベーションが上がらないためもありますので、よろしければ他の方も、感想などお寄せいただければ嬉しいです。

 最近サイトはほったらかし状態ですが、来月中には「乙女座の園」もまとめたいと思いますので、今しばらくお待ち下さい。

 さて、それでは開幕。

(2)

 啖呵を切って飛び出してきたものの、もしもこれで解雇されたら、正直次の仕事の当てもない。しかし良介は、在籍出向の形で「アトラクティス」から派遣されている立場だ。「B&B」の社長である春香には、良介を解雇する権限はないし、会社だっていきなり彼を解雇することはないだろう。「B&B」と本社とのシステム管理は、基本的に良介一人でやってきたのだ。
 今後は事情の聴取が行われたあと、やはり「B&B」にもどれという業務命令が下る……その辺りのことは、十分に予想できる。
 とはいえ、それでも構わない。良介の目的は、女の子の服を着せられるような無理難題を押しつけられる業務を免れることであって、この会社を辞めたいわけではないからだ。おそらく本社の人間を挟んだ面談を通し、今後あまり無茶な仕事を押しつけないようにとの連絡が、黒谷社長に下る程度だろう。多少社内での居心地は悪くなるかも知れないが、次第にエスカレートする要求に付き合っていたのでは、はっきり言って身が持たない。
 まぁ、おそらく今日のうちに社長から本社に連絡が行って、翌日の木曜には本社から自分に連絡が来るのだろうな。そんな良介の予想は見事に当たって、翌日、《アトラクティス》本社から彼の自宅に連絡があった。あろう事か、少し前に良介のウェイトレス姿に目尻を下げていた人事部長御自らの電話だった。
 彼は開口一番、
「どういうことだね、有沢くん。いきなり仕事を外れるなんて」
「どうもこうも。社長の命令が女装ばかりなんで、さすがに付き合いきれなくなってきただけです。僕はシステム関係の調整に行ったわけで、女装してお客さんの前に立つために行ったわけではありませんから」
「お前な……仕事でそんな甘いことが言えるわけ無いだろう! ……と怒鳴るのが筋なんだが」
 人事部長は溜息をつき、
「確かに彼女の趣味は、押しつけられる方にとってはたまらないのは判る。だが、彼女の方も色々あって、君のような存在がいなくてはインスピレーションが働かないらしいんだ。ここは一つ、耐えてくれないか」
「インスピレーションが働かない、なんて言ってないで、せめて他の方法でインスピレーションを刺激して欲しいものです。だいたい黒谷社長、僕が入ってくる前から有能だったじゃないですか。なら、僕があんなことをしなくても……」
「実は、だな。何人か、前任者がいるんだよ。だから彼女のインスピレーションは、常に高い水準に保たれているんだ」
 ささやかな悪事を告白するような口調で、人事部長は言った。
「いちばん最近だと……あの子か。君のように小柄で、女顔な子でね。彼は君と違って、『B&B』に直接入社した男性社員だった。高卒でまだ若く、気も弱かったから、すぐに彼女の趣味に囚われたんだ。手順はだいたい君の時と同じ。口実をつけてキャンペーンガールとしてイベントに参加させられたあと、女性の気持ちに近づくためと称してOL姿で出勤させられ、さらに彼女が用意したアパートに女性として入室、常時、女装を義務づけられた」
 全く同じだ。良介は、道理で社長が手慣れているはずだと納得した。
 人事部長はさらに続ける。
「君同様、会社を辞めるのという騒ぎになったこともあった。しかし黒谷くんが説得したのと、彼自身がもう女性としての意識を持ち始めていたので、なんとか和解した。そして、性同一性障害との診断書を得て、性転換。今も彼……いや、彼女は、『B&B』で働いているはずだ」
「……それって……」
 良介の声が震えた。彼の頭の中には、ある想像が働いていた。まさか、そんな、いや、しかし。
「それって、もしかして……」
「彼女の名前は、俺の口からは明かせない。もしかしたら勘づいてるかも知れないが、聞かないでくれ」
 人事部長の口調は頑なだった。それを感じた良介は、追及を諦めた。興味本位で聞くべき事柄ではないし、どうしても気になるなら、本人に確かめればいいことだ。
 その後の人事部長との話し合いで、明日、《アトラクティス》で会談の場を設け、良介もこれに応じることを承諾した。しかし、今の話が頭の中を駆けめぐっていて、とても考えがまとまる状況ではない。電話が終わったあとも、良介は受話器を手にしばらく固まっていた。
 もしかしたら、彼女は……信じられない思いで電話機の前に立ちつくす良介。そんな彼のズボンのポケットで、携帯が鳴った。
 画面に表示される電話番号と、名前。その相手は――。

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