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十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2009-07

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乙女座の園 第4エリア(3)


 (3)

 しかし良介の感慨など知らぬげに、宣伝部長は相変わらず伝法な口調で、どんどん話を進める。愛用のオリンパスを片手に、
「ンじゃ、説明を始めっか。今日りさちゃんに着てもらったのは他でもない、《乙女座の園》のショップ《The Grass Slipper》で販売している、小さな子向けデザインの服だ。と言っても、サイズが違う。下は90からあるのは当たり前だが、上は何と170まである」
 良介は驚きに目をみはった。このデザインで、170?
「なんでまた、そんなものを」
「りさちゃんには、判るめぇよ」
 宣伝部長は、良介から目を逸らして遠い目をした。
「女の子ってのは、心のどこかに『可愛い服を着たい、ふりふりの服を着たい』って思いがあるもんだ。でもよ、こんな服を着て許されるのはいくつまでだ? せいぜい10かそこいらまでのことじゃねぇか。そのころにそういう服を着られる人はいい。でも、子供なんてどんどん背が高くなって、新しい服もすぐ着られなくなる。そうなりゃあ、1年も着られない服にお金をかけてられない家が大半だ」
「…………」
「一方で、女の子向けのブランド……可愛さを売りにしたブランドは、これまた結構値段が張る。人気ブランドの《Sweet Suits》なんざ、ワンピース一枚が1万いくらとかそういう世界だし、他のブランドだって決して低くはないからな。子供を抱えた大半の家は、デザインは二の次で長く着られる大きめの服や、取っ替え引っ替えできる安い服を求める。だもんで大半の女の子は、『可愛いお洋服』を着る唯一の機会を失って、大人になるってわけだ」
(ああ、それで……)
 良介は、ひどく納得して肯いた。
 《乙女座の園》でアルバイトをさせられたときに、気がついたことがある。お客としてきていた大半の女性が、あまりにも非日常的な服――お姫様のようなドレスや、あるいは子供服すれすれの可愛いワンピース――を着ていたこと。
 しょうじき、似合っていない人も多かった。というか、顔の美醜とは関係なしに、20を過ぎれば子供が着るような可愛い服は、全く似合わなくなるのだ。しかしそれでも、多くの女性は「似合わない」服を着ていたし、それに対して何か無粋な言葉を投げかけたり、冷やかすような目線を向ける人もいなかった。女性同士、「似合わなくても可愛い服を着たい」心理を理解して、お互いに「夢の世界」を維持していたのだ。
 そう思い至った良介の内心を見透かすように、宣伝部長は鋭い目を向けた。
「今頃やっと、判ったって顔だな。企画案にまで立ち会っておきながら、気付くのがちぃっとばかり遅すぎやしめぇか」
 彼女は怒りを含んだ冷たい声で、そう言った。その怒りは良介が気付かなかったことに対してではなく、男性一般の無神経さに向いているようだった。良介はその中に、彼女の内側に渦巻くドロドロとした感情をみた気がした。
 しかし一転、宣伝部長はにやにや笑って良介を見た。
「まぁいい。りさちゃんに判ってもらえたところで、さっそく始めようか。今日撮るのは、ウエブ上で公開する、グッズショップの商品案内の写真だ」

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