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十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2009-07

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乙女座の園 第4エリア(5)


 (5)

 撮影は終了。
 部長の話はなかなか考えさせられるものがあったが、そうは言っても良介は、女装趣味があるわけではない。いくら似合っているから、おかしくないから、可愛いからと言われても、ならいいか、と割り切れるものではないのだ。単純に、女装そのものが恥ずかしいのだ。
 撮影終了後も、良介は撮影で使った子供服を脱ぐことは許されず、総務でのデスクワークに戻った。案の定、黒谷晴香社長は大喜びで、
「あら、りさちゃん。ずいぶん可愛い服着てるじゃない。全然違和感ないわね」
「そうですねー」
 備品調達のチェックをしながら、古本留美も口を挟む。
 先ほどの宣伝部長とのやりとりを考えれば、単に褒められているだけなのかも知れないが、恥ずかしいことは変わりない。良介はむすっとした。
 だからこそ、晴香が次に言った言葉は、良介にとってはあまりにも意想外だった。
「そうそう。有沢君。突然だけど、あなたの《乙女座の園》でのアルバイトは打ち切りになったわ」
「え」
 とっさに何を言われたのか判らず、良介は耳を疑う。晴香はちょっと悔しそうに、
「ゴールデンウィークからこっち、《乙女座の園》は大繁盛だったでしょ? でもそのせいで、同業社から結構マークされているのよ。いうなればあら探しね。ちょっとでも油断するとたちまち足元を掬われかねないの。だから……万一、女性限定を売りにしていた《乙女座の園》で、男性が女装してウェイトレスをやっていましたなんてばれようものなら、たちまち評判が堕ちることは間違いないわ」
 ああ、とすると結構危ない橋を渡っていたわけだ。良介は今さらながら実感する。
 また、晴香の話によると、女性に紛れて侵入してきた男までいたそうだ。幸いさやかがすぐに発見し、その後、案内スタッフの一員として働かされたとか。この辺りのことも、ライバル企業にとっては《乙女座の園》を潰すための好餌となるだろう。あるいはもっと直截に、他の企業やマスコミからのスパイが入り込んでくるかも知れない。
「と、言うわけで……もう、あなたが《乙女座の園》に派遣されることはないわ」
 溜息をつく黒谷社長。良介は彼女に、率直な感想を述べた。
「とても嬉しいです」
「あなたそれでもうちの社員?」
 黒谷社長は良介を睨むが、良介としては嬉しいことこの上ない。しかし、喜んだのもつかの間。黒谷社長はさらに、とんでもないことを言いだしたのだった。
「まぁいいわ。そんなわけで有沢君には明日から、ごくごく普通のデスクワークに復帰してもらうことになる。でも当面、今まで通りに女性用の事務服を着ていなさい」
「嫌ですよ。僕は女装趣味なんてありませんし、第一、もう、必要ないでしょう」
 良介は即答した。黒谷社長は、おもちゃをとられた子供のような表情で眉根を寄せた。
「あるのよ。色々とね」
 結局この日、良介は撮影に使われた子供服のセットを来たまま、デスクワークに従事させられたのはもちろん、外での食事に連れ回されて恥ずかしい目にあった。お昼を食べに行った喫茶店では、小さな女の子から、指さして洋服を羨ましがられる始末だったのだ。
 しかしこれは、ほんのはじまりに過ぎなかった。翌日彼を待ち受けていたのは、黒谷社長による、さらに理不尽な命令だったのである。

乙女座の園 第4エリア(4)


 (4)

「最近の女性服が、妙に子供っぽいと思ったことはねぇか?」
 フラッシュを焚きながら、宣伝部長は軽い口調で尋ねた。
「パフスリーブ、丸襟、フリル、レース、タータンチェック、ジャンパースカート、フリルたっぷりのミニスカート。あたしが若い頃にゃ、いわゆるアイドル系の女の子しか着なかったような服を着て、街中を歩いてる女の子が多くなってる。だいぶん、そう言った服を大人の女性が着ることに、抵抗がなくなってきてるんだ」
「ええ……」
「一部の見方には――これは男の意見で多いんだが――今の女性は大人になりたがらない、いつまでも子供のままでいたがる、ピーターパン・シンドロームの一類型だ、なんていうやつもいる。でもあたしは……あ、ほっぺたに手を当てて。そう、そんな感じだ。……でもあたしは、女性が自分の着たいものを着るようになった、いい傾向だって思うね。服装なんて、あんまり見苦しくさえなけりゃあ、どんなものを着ていたって構わないはずだ。しかも今の子は化粧品の発達や、美容に関する研究が進んだおかげで、結構いつまでも綺麗な子が多い。それこそ子供服を着ていたって似合うような女の子はいくらでもいるしな」
「…………」
「そういう子達が可愛い服を着たいから着て、誰にも迷惑かけちゃいねぇってのに、それをとらまえてピーターパン・シンドロームの、幼児退行のと言い立てるのは、野暮天の極みってぇもんじゃねぇか。なぁ、りさちゃん」
 彼女が言うあいだにも、良介は部長に言われるがままにポーズを取り、いかにもぶりっこな表情と仕草で撮影される。もしかしたら部長も、《乙女座の園》で使われているような服を着たかったのかも知れない。良介はひそかにそう思った。
「なぁ、りさちゃん。あんたはどう思う? やっぱり、いい年した大人が子供服を着てたら変だとか、思うかい。怒らねぇから、正直なところを言ってみな」
「え、ぼ、僕ですか? 僕は……」
 良介はどもった。この部長を相手では、迎合するような嘘をついたとしてもすぐにばれてしまうだろう。彼は慎重に、思うところをしょうじきに述べた。
「僕としては……ある程度見苦しくなければ、街中を歩いていても構わないと思いますし、似合っていればなおさら、問題はないと思いますよ。ただ、こういう子供服を着ることは、まだまだ一般的になっているとは思えません。ですから、着たい服を着るのであれば、周囲から多少なりとも奇異の目で見られるのは覚悟する必要があると思います」
 良介の答えに、部長は首を振った。
「社会的に一般化しているかなんて、どうでもいいんだ。肝腎なのは、りさちゃんがどう思うかだ。大人の女性が子供服を着ていて、そこそこ似合ってる。そいつをおかしいと思ったり、馬鹿にしたりするかね?」
「それは……しませんよ。特に、似合っていれば」
「なら」
 部長はここで、良介に向かい、嬉しそうに笑いかけた。
「なら、りさちゃんのことにしたって同じだよ。男だって同じだ。好きなものを着て、それが見苦しくさえないんなら、他人の眼を気にする必要はねぇ。大丈夫、りさちゃんはちゃんと似合ってる。あたしが保証してやるから、まわりがどう思うかなんて、気にすることはねぇよ」

乙女座の園 第4エリア(3)


 (3)

 しかし良介の感慨など知らぬげに、宣伝部長は相変わらず伝法な口調で、どんどん話を進める。愛用のオリンパスを片手に、
「ンじゃ、説明を始めっか。今日りさちゃんに着てもらったのは他でもない、《乙女座の園》のショップ《The Grass Slipper》で販売している、小さな子向けデザインの服だ。と言っても、サイズが違う。下は90からあるのは当たり前だが、上は何と170まである」
 良介は驚きに目をみはった。このデザインで、170?
「なんでまた、そんなものを」
「りさちゃんには、判るめぇよ」
 宣伝部長は、良介から目を逸らして遠い目をした。
「女の子ってのは、心のどこかに『可愛い服を着たい、ふりふりの服を着たい』って思いがあるもんだ。でもよ、こんな服を着て許されるのはいくつまでだ? せいぜい10かそこいらまでのことじゃねぇか。そのころにそういう服を着られる人はいい。でも、子供なんてどんどん背が高くなって、新しい服もすぐ着られなくなる。そうなりゃあ、1年も着られない服にお金をかけてられない家が大半だ」
「…………」
「一方で、女の子向けのブランド……可愛さを売りにしたブランドは、これまた結構値段が張る。人気ブランドの《Sweet Suits》なんざ、ワンピース一枚が1万いくらとかそういう世界だし、他のブランドだって決して低くはないからな。子供を抱えた大半の家は、デザインは二の次で長く着られる大きめの服や、取っ替え引っ替えできる安い服を求める。だもんで大半の女の子は、『可愛いお洋服』を着る唯一の機会を失って、大人になるってわけだ」
(ああ、それで……)
 良介は、ひどく納得して肯いた。
 《乙女座の園》でアルバイトをさせられたときに、気がついたことがある。お客としてきていた大半の女性が、あまりにも非日常的な服――お姫様のようなドレスや、あるいは子供服すれすれの可愛いワンピース――を着ていたこと。
 しょうじき、似合っていない人も多かった。というか、顔の美醜とは関係なしに、20を過ぎれば子供が着るような可愛い服は、全く似合わなくなるのだ。しかしそれでも、多くの女性は「似合わない」服を着ていたし、それに対して何か無粋な言葉を投げかけたり、冷やかすような目線を向ける人もいなかった。女性同士、「似合わなくても可愛い服を着たい」心理を理解して、お互いに「夢の世界」を維持していたのだ。
 そう思い至った良介の内心を見透かすように、宣伝部長は鋭い目を向けた。
「今頃やっと、判ったって顔だな。企画案にまで立ち会っておきながら、気付くのがちぃっとばかり遅すぎやしめぇか」
 彼女は怒りを含んだ冷たい声で、そう言った。その怒りは良介が気付かなかったことに対してではなく、男性一般の無神経さに向いているようだった。良介はその中に、彼女の内側に渦巻くドロドロとした感情をみた気がした。
 しかし一転、宣伝部長はにやにや笑って良介を見た。
「まぁいい。りさちゃんに判ってもらえたところで、さっそく始めようか。今日撮るのは、ウエブ上で公開する、グッズショップの商品案内の写真だ」

乙女座の園 第4エリア(2)


 (2)

「何でですか!? 下着はちゃんと着けてるでしょう?」
 「女性ものの下着」とは言いづらく、良介は曖昧に言葉をぼかす。しかし宣伝部長は彼の下着をためつすがめつしながら、
「ああ。ちゃんと女物の下着をつけてるな。レーシィな黒のブラとショーツのセットにガーターベルトとストッキングなんて、まるでデート当日の女の子みたいな気合いの入れ方だ」
 そう言われて、良介は赤くなった。今さらながら、自分が「デート当日の女の子」みたいな服を着ていることを、思い出させられたからだ。だが、宣伝部長は容赦ない。
「でもだな。今から着てもらうこの服を着るような年代の女の子が、そんな下着を穿くか、ってのが問題なんだよ。小学生は、そんな服は着ないだろう」
「なら、小学生にモデルを頼んでください」
 むっとして、良介は言いかえす。大体、男の自分にこれを着せようというのが無茶なのだ。普段から女装させられて、女性用下着を強要された挙げ句、それでもだめだと言われては納得できない。
「そういう問題じゃないだろ? 特にブラジャーは、胸が目立って子供服には似合わねぇ。サロペットスカートの下からストッキングに包まれた脚が伸びるってぇのも問題だ。そんなわけで、上から下まで女の子になって欲しいんだ。小さな女の子に、な」
 やってられるか。良介はむっとして、内心そう吐き捨てた。しかし、逆らっても無駄と判断したのもあるし、仕事においてこの程度の理不尽はつきものだ、と言うのも承知している。これも仕事と割り切って、大人しくガーターを外す。
 いい加減ナイロンのショーツの感触に離れてきて、今では興奮することもなくなっていた良介だったが、部長から渡された子供用のショーツは、それとはまた違う厚ぼったい感触で、危うく勃起しそうになる。前にピンクのリボンがついただけのシンプルなショーツだったが、それだけに一層、「小さい子供の普段着」のようで、大の大人である自分がそれを着ていることの異常さを噛みしめた。
 ブラの代わりに着るように言われたのは、こちらもシンプルな白のキャミソール。肌にぴったりと張り付く感触は、ブラジャーのしめつける感触とはまた異なる、「女性用下着を着ている」ことを意識させるものだった。
 その上から、先ほど見せられたセットを着る。サロペットは150サイズだったので、良介にはやや小さい。それを無理矢理着たものだから、スカートの丈は極端に短く、太腿の中程まであるかどうか。スカートの裾が広がりにくいから、前屈みになっても辛うじてお尻を隠すことが出来るが、これがごく普通のプリーツスカートやサーキュラースカートだったら、とても街中を歩くことなど出来はしないだろう。
 これにレースつきのソックスとピンクの子供用スニーカー、サクランボのヘアゴムをつけ、髪型を小さなツインテールに整えれば、まるで小さい女の子のようなスタイルになる。もっとも、端からそう見えるには、身長や顔立ちなど様々な要素が邪魔していた。しかし良介は女顔だったし、身長も男性としては低すぎるくらいだったから、せいぜい高校生くらいの女の子が、妹のお上がりを着ているくらいに収まっていた。
 鏡で自分の姿を見て、良介はげんなりした。何よりも、その服を着た自分にあまり違和感がないことに。

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