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十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2009-11

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『女児転生』 第一章(10)


 (10)

 授業中の廊下はがらんとして、足音一つしない。窓から光が入っているので明るいが、それだけに妙に虚ろだった。閉めきった教室から先生の講義口調の声がくぐもって響き、現実感というものがない。
 あるいはそれも、いま俺が着せられているこの服のせいかもしれなかったが。
 何なのだろう、この服は。なぜ俺は、こんな服を着ているのだろう。
 いまの自分の姿を見ていたくなくて、俺は視線を上げた。視線を上げたところで、身体にまとう服の感触と、足元を通り抜ける風の感触、そして背中にかかる重みのせいで、いま何を着ているのか忘れることはできなかったけれども、自分のずっと見ているよりははるかにマシだった。
 視線を上げると、僕の前を2人が歩いているのが見えた。先生は手ぶらで、莉子は僕のバッグや、先生が持ってきた透明なプールバッグ、そしてピンクの体操着入れを持って。
 誰もいない廊下だというのに、そこを歩くだけでとんでもなく恥ずかしかった。教室と廊下には壁を隔てているとは言え、ドアには大きな窓ガラスがついていて、ガラス越しに教室の中が見える。同じ学校の生徒40人近くが、すぐ側にいるのだ。落ち着かないわけがない。
 しかも、こちらから向こうが見えると言うことは、向こうからこちらが見えると言うことでもある。時々、授業に退屈になったのかぼーっとこちらを見ていた生徒が、明らかに小学生の女の子めいた服を着ている俺を見つけて、ぎょっとしたように目を開く。まさか、男が女装しているとは思わなかったろうけれども、こんな服を着ている人がいると言うだけでびっくりしたのだろう。
 もしもそれが、俺……男子高校生である山野武志だとばれたら。いや、どのみちばれるに決まってる。俺はこのあとずっと、「小学生の女の子の服を着て校舎内を歩いていた男」として、この学校中に知られてしまうのだ……!
 絶望的だった。俺はいったん上げかけた視線をまた下ろした。しかし、それによってまたしても自分の姿を見下ろす羽目になってしまい、耳の奥に他の生徒たちの囁きが聞こえるようだった。
 その時、2人が何やらひそひそと話をするのが聞こえた。
「佐々木さん」
「はぁい」
「それを持って、先に教室に行っててくれる? 私は山野くんと一緒に、ちょっと取りに行くものがあるから」
「はぁーい」
 明るい声で返事をして、莉子が立ち去る。その姿を見て、俺ははっとした。
 教室に先に行かれてしまったら、あらぬ事を言い触らされる!
「ちょ、待っ……!」
 慌てて後を追おうとした。しかし、横合いから突然腕をつかまれる。振り返ると、先生が俺の左腕をつかんでいた。
「だめよ。山野くんにはこれから先生と一緒に、教材を取りに行ってもらうんだから」
「何ですか、それ! もうクラスメートに笑われるのは諦めましたから、あまりあちこち連れ回さないでくださいよ!」
「そうは行かないわ。これからの授業に必要なものを忘れてきてしまったんだもの。一人では持てる分量じゃないしね。だから、ついてきて欲しいの」
「~~~!!」
 俺はうめいた。先生の性格を考えれば、ここで抵抗するのは無駄──どころか、かえって大声で人目をひくだけのことになりかねない。どうせ行き先は教材室か職員室だろう。そう判断して、俺は抵抗をやめる。
 大人しくなったと判断したのか、先生は俺の腕を放して歩き出した。慌てて後を追い、廊下から階段へ。2階にある職員室、あるいは俺たちが授業を受けている3年生の教室へ行くのかと思っていたら、何と3階から上り階段に脚をかけた。
「ど、どこに行くんですか?」
 俺の声は震えていたと思う。先生は平然と、
「2年生の教室よ。うっかりして、今日の授業で使うプロジェクターを置いてきてしまってね。スライドも一緒だから、一人では重たいのよ。だから、持ってきてもらおうと思ってね」
「そ、そんな……!」
 この格好で、後輩たちの目にさらされる──考えたくもない。しかし先生はどんどんと階段を上っていってしまって、ついていくより他に道はなかった。

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