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長編『禁じられた遊び』 (2)
『禁じられた遊び』
上村 大海(うえむら ひろみ)……中学一年生の少年。
天野 聡子(あまの さとこ)……大海の同級生。
(前回のお話)
第一章 制服遊戯 (2)
ふと背後から、天野さんが近づいてきていた。体育を終えたばかりなのか、ジャージ姿だ。ほんの少し人の悪そうな笑みを浮かべている。
ぼくは慌てた。彼女の制服を見ていたことがバレたら、変態扱いされてしまう。
「な、なんでもないよ。ちょっと、ぼーっとしてただけで」
「嘘。あたしの制服、見てたんでしょ」
彼女はくすっと笑って、斜め前のある自分の席に近づくと、その上に置かれた制服を、ぼくの机の上に置いた。
「ほら、どうぞ。好きにしていいわよ」
「す、好きにって……」
目の前に積まれた布の塊から、少女の汗の匂いが微かに漂ってくる。
どうしよう。まさかこんな場所で、着てみたいだなんて言えるわけがない。
「ねぇ、触ってみたいの? それとも、匂いを嗅いでみたいの?」
「ちっ、ちがっ、そんなこと……!」
「じゃあ――」
天野さんは、ぎりぎりぼくに聞こえるくらいの低い声で、
「もしかして、着てみたいの?」
不意に、図星をさされた。
ぼくは何も答えられず、ただ、彼女の目をじっと見つめることしかできなかった。
彼女もまた何も言わず、じっとぼくを見つめている。
恐ろしいほどの静寂が、ぼくと彼女を包んでいた。沢山の生徒が騒がしい教室なのに、耳が痛いほどに静まり返っている。まるで、ぼくたちだけが薄い膜の内側に閉じ込められてしまったかのように。
そして――
「あはははっ、なーんてね」
その瞬間、ぼくたちを包んでいた膜は雲散霧消し、現実へと帰ってきた。
天野さんはくすくすと笑いながら、ぼくの机の上から制服を持ち上げて、
「冗談って。もー、上村君ったら、からかいがいがあるなぁ」
「からかわないでよ、もう」
「ごめんごめん。だって上村君、私の制服をじっと見てるんだもの」
「だから、誤解だってば」
ぼくの言いわけを聞き流して、天野さんは自分の席に座り――ふと振り返って、こう言った。
「そうだ。放課後、ちょっと教室に残ってもらえる?」
「い、いいけど……」
「よろしくね」
そう言って、今度こそ天野さんは背中を向けた。
いったい何の用だろう――先ほどのやり取りの後だけに、胸がどきどきと高鳴ってくる。
その鼓動が、不安によるものなのか、期待によるものなのか――ぼくには、区別がつかなかった。
(続く)
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