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十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2010-12

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『女児転生』 第三章(2)


  (2)

 家にたどり着いてすぐ、俺は玄関先に積まれている物に目を奪われた。いくつものゴミ袋。その中身には見覚えがある。服だ。俺の服だ。
「ちょっと、母さん! 俺の服は!?」
 慌てて家に入り、ランドセルを喧嘩先に放り出してどなる。するとキッチンのほうから、
「あんたの服なら二階よ。早く着替えていらっしゃい」
「そ──そういう意味じゃなくて! 玄関にあるあのゴミは……?」
「もうあの服はいらないでしょ? かわりのは用意してあげたから、見てらっしゃい」
 無茶苦茶だ。俺は急いで、自分の部屋に向かう。嫌な予感は増すばかりだった。二階に駆け上がり、自室のドアを開け──
 開かない。鍵がかかっている。力任せにガチャガチャとドアノブを引くが、一向に開く気配はない。そんな、部屋に入れないなんて……!
「あんたの部屋なら、奥よ」
 母さんの声が、階下から上がってきた。俺はぞっとして、おそるおそる、廊下の奥を見る。
「TAKESHI」のプレートがかかったドア。母親が言うのは、あの部屋のことに間違いないだろう。けど、あの部屋は──
「早く自分の部屋で、用意してある服に着替えてから、こっちに下りていらっしゃい。これからのことについて、話しておかないといけないんだから」
「く、ぅ……」
 出かける前に見た、あの部屋──あの子供部屋に、果たしてどのような服が用意されてるのか。見なくても想像はついた。
 俺は覚悟を決めて、部屋の中に踏み入る。幼稚園児の女の子なら喜びそうな、メルヘンな内装の部屋だ。レースの天蓋つきベッドだなんて、いったい今どきどこで見つけてくるのか。足元はピンクのカーペット、部屋の中央には可愛らしいテーブルとチェアが置かれている。
 そしてその上には、小学生が入学式で着ているような、ブラウスとジャンパースカート、そして短い上着があった。コサージュまである。母さんが言っていたのは、おそらくこれのことだろう。
 ふざけるな。こんな──なんだって俺が、こんなものを着なくちゃいけないんだ!!
「母さん!!」
 俺はスカートを翻して階段を下り、リビングのドアを開ける。すると母さんは、
「あら、着替えてないじゃない。どうしたの」
「誰があんな服に着替えるか!! あ、あんな、小さな女の子みたいな服に!!」
「だって、ああいう服が好きなんでしょう? 隠さなくていいわよ、誰もおかしいだなんて思わないから」
 話が通じていない。母親の頭の中ではもう、「俺が女の子の服を着るのが好きだ」という想像が事実として定着してしまっている。説得の余地はゼロだ。
 けど、ここで諦めるわけにはいかない。
「母さん、話を聞いてくれよ。駅前であんな格好をしてたのも、別に俺がああいう格好をするのが好きだからじゃないんだって。ただ単に、色々あって──」
「いいじゃない、恥ずかしがることなんてないわ」
 まるで壊れたスピーカーのように、母さんは同じ言葉を繰り返す。俺の説得が、耳の内側に届いている様子はない。
「うふっ、実はお母さん昔から、娘が欲しかったのよね」
 母さんは笑いながら、俺を見た。いやぁな目つきだった。まるで長年欲しがっていたオモチャが目の前にあらわれたかのような、目の前に落ちてきた僥倖を何とかして逃すまいとするかのような、歪んだ目つきだ。
「だから、武志が女の子になりたいって言うんなら、お母さん、応援してあげる。可愛いお洋服を一杯一杯、武志に着せてあげる。──ううん、女の子に武志なんて名前はおかしいわね。あなたはこれから──みゆきちゃんよ。女の子が生まれたらつけようと思っていた名前なの。うふっ、山野みゆき、いい名前でしょ?」
「……………………」
 狂笑──とさえ言いたいほどに常軌を逸した笑みを見て、俺は説得を諦めた。もう、この親は駄目だ。
 ただ、それでも──
「な、ならせめて、制服くらいは普通に着せてくれよ。学校の制服、予備があっただろ?」
「ないわよ。武志の服はみんな棄てたもの。うふっ、かわりにみゆきちゃんの服があるからいいでしょ? 学校にも、みゆきちゃんの服で行くといいわ。そのセーラー服はちょっとお姉ちゃんっぽすぎるから、もうちょっと可愛い、小学生みたいなお洋服で……」
 うわごとをほざいている母親に背を向けて、俺は外に向かった。途中、玄関に置いてあるカッター(梱包を解くために使うものだ)をひっつかみ、外に出る。3つ、4つ山になっているゴミ袋は、透明なので中が見える。探すと──あった。シャツの白。ズボンのグレイ。うちの高校の男子制服だ。
 力をこめてカッターナイフを引き、ゴミ袋を破る。これさえあれば、せめて学校には普通に行ける。いや、制服のまま外で時間をつぶせば女装しなくてはならない時間も最小限に抑えられるだろうし、何より普通の服を買いに行くこともできる。これさえ、この制服さえあれば──
「え」
 ウソだろ。なぁ、ウソだろっ!?
「どうしたの、みゆきちゃん」
 ……………………
「うふふっ、その服は、武志の服よ。みゆきちゃんには必要のない服。もう二度と、必要になることもない服。だから──」
 震える手で、ゴミ袋の中から制服を取り出す。それは、その制服は──

「着られなくなっても、誰も、困らないでしょ?」

 ズタズタに引き裂かれて、もはや二度と着られない状態になっていた。

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