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十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2024-05

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乙女座の園 第7エリア(2)


 (2)

 しかし良介に対し、円香はパタパタと手を振って、
「あは、いいよ別に気にしなくて。あたしだっていつもなら化粧と服とでごまかすところを、ごまかさずに来てるんだから」
 軽い調子で笑った。
 たしかに今日の円香の服装は、ライム・グリーンのカッターシャツに、デニムのジーンズ。足元は、ざっかけないサンダルを穿いている。ボーイッシュと言うほどではないが、さりとて女の子らしさを強調するようでもない、むしろ中性的な印象のいでたちだった。
 化粧も、ごくごく薄い。良介の目には、化粧などしていないのではないかと思えるほどだ。もともと彼女は嫋々たる美人ではなく、むしろスマートな印象の美人だったが、1年以上のブランクを挟んで見てみると、彼女のそうした傾向にはさらに拍車がかかっているようだった。
 背中まで届く長い髪をすっきりとした濃紺の布で束ねているが、それ以外は、性別を特定できる要素が極端に少ないのだ。これで髪の毛が短かったら、本当に彼女の性別を言い当てるのは難しいだろう。
 しかし、
「でも、逆にすごく似合ってるね。何かこう……自然な感じで」
 良介は、思わずそう言った。世辞を言うつもりなど全くなく、良介にとっては素直な感想だった。円香は嬉しそうに笑い、
「ありがと。大学の頃の知り合いの男性で、今のあたしを褒めてくれたの、有沢君がはじめてよ。みんな今のあたしを見ると、なんか失望したような顔するんだよね。いやになっちゃう」
 そう言った。良介は、どちらの気持ちも分かるような気がした。
 大学時代の彼女は、女性ファッション雑誌から抜け出してきたようなモデル張りのスタイルと流行ファッションで、男子学生の尊崇と女子学生の羨望を浴びていた。しかし毎日のように完璧にセットされてくる化粧や、あまりにも洗練されすぎた挙措は、却って良介にとっては近寄りがたいものを感じていたし、(毎日、化粧にどれだけの時間をかけてるんだろうな……)(ああいう立ち姿とか歩き方、どんだけ練習して身につけたんだろう……)とか、他の男子学生たちにとってはどうでもいいようなことを考えたりしていたのだ。他の男は、そんなことは気にしない。あくまで彼女の完璧な姿を見て、その美を賞翫するだけだ。
 だから、昔の彼女を知っていて、それを期待して会いに行く男としては、かつてあがめていた女神が俗塵にまみれてしまったかのような気分なのだろう。
 そして、彼女は……
「その顔見て、なんか馬鹿馬鹿しくなっちゃって。むかしのあたしは、自分で言うのもなんだけど確かに綺麗にしてたし、格好良くしてたけどさ。あたしの本当の姿じゃなくて、一般的な“素敵な女性”のイメージ通りに振る舞っていただけ。でもそれが、世の男たちにとってはいいんでしょーねぇ?」
 整った顔立ちをにやにやと崩して、円香は笑う。確かに本来の自分を押し殺した状態で男たちからちやほやされ、素顔を見せたとたんに落胆されたのでは溜まらない、という気持ちも、痛いほど判る。
 しかし良介も、あまりにも昔とは違う彼女に対して当惑を隠せなかった。彼女はこんな笑い方、こんなしゃべり方をしたことがあっただろうか? まるで、顔立ちは同じだが性格の違う双子が、彼女のふりをしているような……。
 良介の内心を察したのか、円香はさらに、人の悪そうな笑みを浮かべた。
「あ、驚いてる? あたし、実はこんな感じなんだ。大学時代は気取ったしゃべり方してたし、この前の電話でもネコかぶってたけど、ね。……さ、早く行こ行こ。せっかく、なんかおデートっぽい感じなんだし」

乙女座の園 第7エリア(1)

  第7エリア ナイトパレード《Cendorillons》


 (1)

 良介が、円香と待ち合わせをした《乙女座の園》最寄り駅に到着したとき、約束の時間までまだ10分ほどあった。
 駅前には《乙女座の園》に向かうための待ち合わせだろうか、かなり多くの女性がいる。リピーターなのか、《乙女座の園》の中で売られているドレスやカチューシャを身につけている人も多い。それを見ていると、良介はちょっと嬉しくなった。
 駅前は、お世辞にもテーマパーク前の雰囲気を醸し出しているとは言いがたいものだった。小さなロータリー。どこにでもありそうな駅ビル。せいぜい、《乙女座の園》へ向かう道に向けて、判りやすい案内がある程度だ。
 それを見ながら良介は、これはこの町にも働きかけて、駅前そのものから作り替えてもらえるよう働きかけた方が良いかしらん、と考えていた。手帳を取り出して、駅前で改善すべきポイントを書き出していく。
 まずはこの駅ビルだ。もうちょっとメルヒェンなものにしてもらった方が良いだろう。舞浜のように、駅を下りた瞬間から夢の国を思わせるようにした方が圧倒的に有利だ。また、舞浜と違うのは、この辺りにはまだまだ工業地帯の名残が残ってることだ。これは、なかなか上手くは行かないかも知れない。
 などと考えていると、
「お待たせー!」
 背後から女性の声が聞こえた。振り向くと、向こうから月織円香が走ってくるのが見えた。良介に向かって、満面の笑みを浮かべている。学生時代には冷たい美人という感じだったが、こうして笑顔を見せると、伶俐な印象はそのままに華やかさを増していた。
 良介の前まで来ると、彼女は肩で息をついた。
「ごめーん、有沢くん。待った?」
「全然。今来たところ。それに、まだ約束の時間には早いくらいだし」
 良介は笑って時計を見る。約束の時間の五分前だった。
「それにしても、あんな遠目で、良く俺だって判ったね」
「うーん。あんまり迷わなかったな。ほら、顔じゃなくて背格好が、有沢君みたいに細い男の子って珍しいから」
「嬉しいのか、嬉しくないのか……」
 円香の言葉に、良介は大げさに肩を落とす。円香はその方をぱんぱんと叩いて、
「気にしない気にしない。大体あたしだって、ちっとも女の子らしい体格じゃないもの」
「そう? 月織さんは……」
 良介は改めて円香の全身を眺め、反対するような言葉を言おうとして……ちょっと押し黙った。確かに彼女は、「女の子」らしい体格ではなかった。
 学生のころは、背も高く、モデルばりのスタイルで男子学生の視線を集めていた彼女だが、こうしてみると、確かに背は高いものの胸は薄く、体つきもがっしりしている。無駄な肉は付いていないが、逆に「女の子」らしくはなかった。むしろ、アメリカのスーパーウーマンを思わせる。しかし胸が小さいため、グラマラスなモデル体型でもなく、どうにも中途半端だった。
 とっさにどうフォローすればよいか判らず、良介は言葉を失った。

乙女座の園 間章7

  間章7 ゴシックハウス《Phantasmagorie》

 授業開始2分まえ。教室内の生徒たちは、授業の準備をするものと、ぎりぎりまでおしゃべりに興じるものとに大別される。僕の隣の席でたむろって入る女子3人は後者、予習したノートを見直している僕は前者だ。
 女三人寄れば何とやらと言うけれど、隣で話す女子はずいぶんと大声でしゃべっていた。聞きたくもないのに、その内容が聞こえてくる。どうやら先週末、神奈川県内にオープンしたばかりのテーマパーク《乙女座の園》に行ってきたらしい。
 それを横で聞きながら、僕は内心冷や冷やしていた。実は昨日僕も《乙女座の園》に行っていたのだから。ばったり出くわさなかったのは、本当に幸運だった。
 僕には別に、女装趣味はない。ただ、一緒に行く予定だった友人に土壇場でキャンセルされ、1人で行くのを嫌がった姉が、僕に女装させて、強引に連れて行ったのである。もともと僕は、体つきが細くて髪も長い。女物のジーンズとシャツを着て、胸に詰め物をしたところ、怪しまれずにはいることが出来た。
 中に入ってからは、あくまで姉の付き添いのようなかたちで、あまり口をきかず、「寡黙な少女」を演じきった。姉はフォトスタジオに連れ込んで色々とドレスを着せたがっていたが、僕は黙りを決め込んで、結局怪しまれないよう、姉は僕に女装させることを諦めた。だから《乙女座の園》に入ったと行っても、それほど過激な女装はさせられずに済んだのだ。
 と、授業開始の本鈴が鳴り、おしゃべりしていた3人のうち、2人が席に戻ってゆく。僕は机の中に右手を入れ、筆箱を取り出そうとしたところで、中に1枚の紙が入っているのに気付いた。
 なんだろう。机の中からとりだしてみると、見覚えのない写真だった。
 それを見た瞬間、僕は真っ青になって、隣を振り向いた。
 隣の少女は、僕に視線を向けないまま、にやりと笑った。
 映っているのは、《乙女座の園》のカフェ《Sweet Spirits》店内。そして、そこで姉と一緒にケーキをつついている僕の姿。
 写真を裏返すと、そこには短くこうあった。

「放課後、女子テニス部の部室に来なさい」

乙女座の園 第6エリア(5)


 (5)

「わっ!」
 携帯の電子音で、軽快なポップのメロディが流れた。着メロだ。
 びっくりした良介は、寝惚け眼でのろのろとソファから立ち上がり、テーブルの上に置いてある携帯を手に取った。そこに表示された名前は、
「月織円香」
 前回電話があったときに登録した名前だった。その名前を見てからやっと彼は、そう言えば今週末彼女と会う約束をしたんだっけ、と思いだした。「アリスのお茶会」に引きずり出されたり、《アトラクティス》本社に呼び出されたりと色々あったせいで、いまのいままで忘れていたのだ。予定を入れなかったのは幸いだった。
 何となくばつが悪いまま、良介は電話に出た。
「もしもし」
「あ、もしもし。有沢君よね?」
 円香の声は、相変わらずハリがある。明日の約束を楽しみにしているように、聞こえないこともない。良介の胸は高鳴った。
「うん」
「いま大丈夫? 話せる? ……かしら?」
「いや、今日電話するって話だったから、月織さんが電話してくるのを待ってたところだよ」
 良介は今の今まで忘れていたことなどおくびにも出さず、そう言った。そうとも知らず、円香の声はいっそう弾んだようだった。
「あ、嬉しいこと言ってくれるなぁ。でも、直前まで行き先については黙ってたの、迷惑だったかな?」
「そんなこと無いって。おかげで今日まで楽しみに出来たしね」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。……って、あ! 確認し忘れていたけど、有沢君、まだ関東圏内にいるわよね?」
 今さらそんなことを聞いてくるなんて、月織さんもけっこう迂闊だ。良介は苦笑した。
「うん。一応世田谷区内だよ」
「よかった。ここまで予定合わせといて、もしも鳥取とか青森あたりに住んでいるとか言われたら、計画が水の泡だものね。じゃあ、その場所なんだけど……」
 彼女は待ち合わせの場所に、ある駅を指定した。それを聞いた瞬間、
「ええっ!」
 良介は思わず叫び声を上げた。
 指定されたその駅は、あろう事か……新宿から電車で一本、《乙女座の園》の目の前にある駅だったのだ。

乙女座の園 第6エリア(4)


 (4)

 そんなこんなで良介は今週中、水曜から金曜まで、ごく普通の男物スーツで働いた。良介に対するまわりの態度も、留美の態度が若干硬くなった程度で、今までとあまり変わらず、彼はほっと胸をなで下ろした。
 そうして3日間勤めて、休日の土曜。恋人もいなければ趣味もない良介は、午前中いっぱいかけて部屋の掃除と日用品の買い出しを済ませ、午後はテレビを見ながら、のんびりしていた。
 といっても、心からくつろいでいるわけではない。水曜に社長から聞かされたシリアスな話を思い出していたのだ。
(確かに……なんで、女装を恥ずかしいと思うんだろうな)
 良介も、他人が女装している分にはあまり気にしないだろう。確かに多少の好奇心が疼くのは否定できないところだったが、バカにするつもりもないし、似合っていればいいのではないかと思っている。しかし、自分がすることを考え合わせると、それはそれで問題だ。
 第1に、馴れの問題だ。男性の衣服の場合、よほどのことがない限り肌を露出し、身体のラインを見せることはしない。脚は特にそうだ。しかし女性の服は肌を見せるものが多いし、ミニスカートともなれば、構造そのものからして脚を隠してくれない。男性にとって脚、とりわけ太腿が空気に触れる状態は、まるでパンツ1枚でいるような錯覚に陥るのだ。
 第2に、まわりの目がある。女装をしていると、どうしてもまわりから見られているような錯覚に陥り、落ち着かなくなるのだ。まぁ、家にいるときにも落ち着かないのだから、この理由は付けたりのようなものだけれど。
 そして第3に、男性としての自覚の問題がある。留美の話ではないが、男性がスカートをはくことには、強い違和感を感じる。他人が穿いている場合、特に似合っている場合には、一時的にその人が男性であるという認識を留保できるのだが、自分が穿く場合には不可能だ。そう、他人がスカートを穿いているのに違和感を感じない場合があるのは、あくまでその人を一部「女性」として見ることが出来るからであって、自分の場合には、そんなことは出来はしないのだ。
 しかしどの理由も、「なぜ女装が恥ずかしいのか」に対する、根本的な答えにはなっていない。逆を考えてみれば、ズボンを穿いてボーイッシュな格好をした女の子を変だと思うか、という話になる。いや、もっと突き詰めれば、男物のズボンとシャツを着た女性がいた場合、それを恥ずかしがるだろうか? まわりは、奇異と揶揄の目で彼女を見るだろうか?
 答えはノーだ。よほどのことがない限り、周りは気にも留めないだろう。
 ひるがえって、女装はどうだろうか。すね毛が見苦しくもないロングスカートだとしても、これを穿いた男性が街中を歩いていたら、周りは彼を奇異の目で見るだろうか? 自分がその状態で町を歩かされたら、恥ずかしいと思うだろうか?
 答えはイエスだ。スカートを穿いた男性は、見苦しくなくてさえも、それだけで人目を集める。
 確かにそう考えると、女装と男装の間には、これほどの大きな差があるのだ。その理由はどこにあるのだろう、そして……社長が言った、「根底にある意識」とは、一体何なのだろうか。
 良介はテレビを消し、目を閉じて、ソファの上に転がった。こんな休みの日にさえ、社長の言葉がよみがえってくるなんて。そう考えると、彼女の言葉は自分の心の深いところにある何かに、触れたのだろうか。
 ぼんやりとそんなことを考えながら微睡みかけた、その時だった。

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