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『少年かぐや』 第十九回(後編)
こんばんは、神無月です。
今日は特に話題もないので、『少年かぐや』の後編をお届けします。(続きを読む)からどうぞ。
* * * * *
「部長、お疲れ様でした」
「う、うん……」
ようやく苦痛に満ちたごっこ遊びから解放された隆人は、部員たちとともに彼らのために用意された一室に引き取り、痛むお尻をさすっていた。
むろんまだ、着替えてはいない。幼稚園児の制服を着た「ひとみちゃん」のままだ。
その隣で、りみは虫も殺さぬ笑顔で部長の奮闘をほめあげる。
「部長のおかげで、今回はずいぶんスムーズに行ってますよ。みんな、最初に大笑いしたから印象がよくなったみたいです。ほら、表情筋が心理にフィードバックするっていうでしょう?」
「そ、それはそうだけど、もう子供達の第一印象をよくするって役割は果たしたと思うんだ。だから別に、俺が着替えても問題はないと思うんだけど」
「だめですよ。せっかく『ひとみちゃん』が子供達の心を掴んだのに、いきなりいなくなったら『ひとみちゃんはどこに行ったの』ってみんな騒ぐに決まってるんですから。恥ずかしいとは思いますけど、今日一日はそれで我慢してください」
「うっ、ううっ……」
これでなんの成果もないようならば、すぐに着替えることもできたのに――隆人は、密かな期待が打ち破られたことを悔やんだ。
りみは事務的な表情で、他の部員たちに声をかける。
「他のみんなも、前に比べるとずいぶんやりやすいでしょ? 女子のほうはすっかり、かわいいひとみちゃんの絵を描くので盛り上がったし。男子のほうはどうだった?」
「こっちもかなりうまくいってますよ。最初にひとみちゃ――失礼、部長のスカートめくりがあったおかげで、いたずらの話題とかで仲良くなれましたから」
「いやぁねぇ、男の子ったら。変なこと、教えなかったでしょうね」
「お、教えてませんってば」
部員たちは打ち解けたように笑い合う。今回の交流会は、部員と子供達の関係だけではなく、部員同士の絆をも深めたようだった。
ただひとり笑いものにされた隆人は、怒ることも出来ず、唇を震わせることしかできない。
「さて、このあとは絵本の読み聞かせですね」
りみは早くも、次のプログラムについて考えていた。カバンの中から絵本を取り出して、
「読むのは私たちが交替でやります。……そうだ、部長は一足先に子供達のところに戻っていてください。私たちで、ちょっとしたリハーサルをしておきますから」
「えっ、そ、そんな!」
あの子供達――残酷で、凶暴な獣の群に、一人で行かなければならないのか。恥ずかしさと恐ろしさの余り、隆人は涙目になる。さんざんぶたれたお尻が、じんじんと痛みを発した。
けれどりみはにべもなく、
「だめですよ。子供達がそろそろ、待ちくたびれたころです。大切な役目なんですから、是非とも部長にやっていただかないと」
「う、うん……」
隆人は反論できずに、渋々うなずいた。
こうして、羞恥に満ちた「交流会」の第二幕が始まった。
(続く)
今日は特に話題もないので、『少年かぐや』の後編をお届けします。(続きを読む)からどうぞ。
* * * * *
「部長、お疲れ様でした」
「う、うん……」
ようやく苦痛に満ちたごっこ遊びから解放された隆人は、部員たちとともに彼らのために用意された一室に引き取り、痛むお尻をさすっていた。
むろんまだ、着替えてはいない。幼稚園児の制服を着た「ひとみちゃん」のままだ。
その隣で、りみは虫も殺さぬ笑顔で部長の奮闘をほめあげる。
「部長のおかげで、今回はずいぶんスムーズに行ってますよ。みんな、最初に大笑いしたから印象がよくなったみたいです。ほら、表情筋が心理にフィードバックするっていうでしょう?」
「そ、それはそうだけど、もう子供達の第一印象をよくするって役割は果たしたと思うんだ。だから別に、俺が着替えても問題はないと思うんだけど」
「だめですよ。せっかく『ひとみちゃん』が子供達の心を掴んだのに、いきなりいなくなったら『ひとみちゃんはどこに行ったの』ってみんな騒ぐに決まってるんですから。恥ずかしいとは思いますけど、今日一日はそれで我慢してください」
「うっ、ううっ……」
これでなんの成果もないようならば、すぐに着替えることもできたのに――隆人は、密かな期待が打ち破られたことを悔やんだ。
りみは事務的な表情で、他の部員たちに声をかける。
「他のみんなも、前に比べるとずいぶんやりやすいでしょ? 女子のほうはすっかり、かわいいひとみちゃんの絵を描くので盛り上がったし。男子のほうはどうだった?」
「こっちもかなりうまくいってますよ。最初にひとみちゃ――失礼、部長のスカートめくりがあったおかげで、いたずらの話題とかで仲良くなれましたから」
「いやぁねぇ、男の子ったら。変なこと、教えなかったでしょうね」
「お、教えてませんってば」
部員たちは打ち解けたように笑い合う。今回の交流会は、部員と子供達の関係だけではなく、部員同士の絆をも深めたようだった。
ただひとり笑いものにされた隆人は、怒ることも出来ず、唇を震わせることしかできない。
「さて、このあとは絵本の読み聞かせですね」
りみは早くも、次のプログラムについて考えていた。カバンの中から絵本を取り出して、
「読むのは私たちが交替でやります。……そうだ、部長は一足先に子供達のところに戻っていてください。私たちで、ちょっとしたリハーサルをしておきますから」
「えっ、そ、そんな!」
あの子供達――残酷で、凶暴な獣の群に、一人で行かなければならないのか。恥ずかしさと恐ろしさの余り、隆人は涙目になる。さんざんぶたれたお尻が、じんじんと痛みを発した。
けれどりみはにべもなく、
「だめですよ。子供達がそろそろ、待ちくたびれたころです。大切な役目なんですから、是非とも部長にやっていただかないと」
「う、うん……」
隆人は反論できずに、渋々うなずいた。
こうして、羞恥に満ちた「交流会」の第二幕が始まった。
(続く)
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