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短編小説「週末の楽しみ」 (7)
神無月です。
現在ちょっとイラストに躓いています。やっぱり自分で何もかもやるのは限界があるのかなと思うのですが、完全に趣味の同人ですし、自分のやれるところでやればいいかなと。
というつぶやきでした。今週分は「続きを読む」からどうぞ。
* * * * * * * * * *
(7)
「まだニナちゃんのママも帰ってきてないでしょうから、7時くらいになってから行きましょ。その頃には、二人とも帰ってきてるから。それまでリビングで、お人形さんと遊んでいましょうね。お姉ちゃんは、大人のお話があるから」
ミサ姉ぇはそういって、隣の部屋――本来であれば夫婦の寝室として使われている六畳間に入った。扉越しに、ミサ姉ぇが誰かと話している気配がする。たぶん専門学校の友達と、ケータイかスカイプで話しているんだろう。
ぼくは気にせず、着せ替え人形のリタちゃんとごっこ遊びをしたり、一人でお歌を歌ったりして、7時まで待った。そして――
「行きましょ、たぁちゃん」
「う、うん……」
お出かけの支度は簡単だ。顔の回りをふりふりが包むようなベビーフードをかぶり、園児用の通学鞄を斜掛けにして、ピンクのスニーカーを履く。ミサ姉ぇに促されるまま、玄関から、マンションの外廊下に出る。
外に出ると、すぅっと夜風が吹き抜けた。太腿丸出しのベビー服だとほんの少し肌寒くって、でもおむつの中は早くも蒸れ始めてる。それより何より、こんな恰好で外に出ている恥ずかしさに体が火照ってしかたない。
大丈夫、大丈夫――ぼくは自分に言い聞かせる。
「通過儀礼」と言っても、今回のことはそれほどひどい内容じゃない。今までみたいに、いきなり昼日中に大勢の人の前へと連れ出されるよりは、ずっとマシだ。
ニナちゃんの部屋に行って、女の子として遊んでから、鍵を返してもらう。それだけだ。
それだけの、はずだったのに――。
「あら、たぁちゃん。こんばんは。ふふっ、うちのニナとお揃いね」
「たぁちゃん、ニナとお揃い~」
恥ずかしい思いをして部屋から出て、団地の廊下を15メートルほど歩いて三つ隣のニナちゃんのお部屋を訪ねたとき、ぼくとお揃いのベビー服を着たニナちゃんと、ニナちゃんのママは、玄関で出かける準備をしているところだった。
悪い予感がする。
「ふ、二人とも、お出かけ?」
「うん。ママとね、ふぁみれす行くの!」
「ええ。近所に、《チルチルミチル》がオープンしたの、知ってるでしょ?」
《チルチルミチル》。いくつものファミレスを経営するグループが最近立ち上げた、新しい系列店だ。「お子様・家族連れのメニューを充実させる」というコンセプトで、青い鳥を挟んで小さい男の子と女の子が向かい合う看板が、主に新興住宅地のそばに立てられている。
このあたりには最近までなかったんだけど、つい半月前、真新しい看板が青いビニールカバーの下から現れ、近所のママさんの間で評判だ。
「今までいったことがなかったんだけど、ニナのお友達が自慢したみたいでね。ニナったら、どうしても行くって言って聞かないのよ」
ニナちゃんのママはそういって、困ったように笑う。
「だからこれから、《チルチルミチル》でお食事なの」
「そ、そうなんだ……じゃ、じゃあ、ニナちゃんがお出かけから帰ってきたらそのときに……」
もう一度ニナちゃんのうちを訪ねるから――そう、言おうとしたとき、急にニナちゃんが大きな声で言った。
「そうだ! せっかくだし、たぁちゃんも一緒に行こっ?」
「えぇっ!?」
最悪の展開だ。ぼくは慌てて、顔の前で両手を振って、
「い、いいよ。二人でお出かけするの、邪魔したら……」
「邪魔なんかじゃないわ。二人が一緒なら、ニナも喜ぶもの。ねぇ、ニナ?」
「うん! ニナも、たぁちゃんと、ミサお姉ちゃんが一緒の方がいい!」
「ほら、ね。倉田さんも、構いません?」
ぼくは祈る思いで、ミサ姉ぇ(本名は倉田操)を振り返る。けれど――
「ええ。おじゃまでなければ、ご一緒させていただきます」
判っていた。ミサ姉ぇは、にっこりと微笑んでうなずいた。まるで最初から、この流れを予測していたように。
まさか――最初から、このつもりで?
すがるように、ミサ姉ぇを見上げる。自分では判らないけど、きっと泣きそうな――本当に小さな赤ちゃんが、不安に母親の顔を見るような目をしていたに違いない。
ミサ姉ぇはぼくをあやすように、にっこりと笑った。
「さぁ、行きましょ、たぁちゃん。お外でお食事なんて、楽しみね。《チルチルミチル》なら、たぁちゃんにも食べられるものがいっぱいあると思うわ」
現在ちょっとイラストに躓いています。やっぱり自分で何もかもやるのは限界があるのかなと思うのですが、完全に趣味の同人ですし、自分のやれるところでやればいいかなと。
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(7)
「まだニナちゃんのママも帰ってきてないでしょうから、7時くらいになってから行きましょ。その頃には、二人とも帰ってきてるから。それまでリビングで、お人形さんと遊んでいましょうね。お姉ちゃんは、大人のお話があるから」
ミサ姉ぇはそういって、隣の部屋――本来であれば夫婦の寝室として使われている六畳間に入った。扉越しに、ミサ姉ぇが誰かと話している気配がする。たぶん専門学校の友達と、ケータイかスカイプで話しているんだろう。
ぼくは気にせず、着せ替え人形のリタちゃんとごっこ遊びをしたり、一人でお歌を歌ったりして、7時まで待った。そして――
「行きましょ、たぁちゃん」
「う、うん……」
お出かけの支度は簡単だ。顔の回りをふりふりが包むようなベビーフードをかぶり、園児用の通学鞄を斜掛けにして、ピンクのスニーカーを履く。ミサ姉ぇに促されるまま、玄関から、マンションの外廊下に出る。
外に出ると、すぅっと夜風が吹き抜けた。太腿丸出しのベビー服だとほんの少し肌寒くって、でもおむつの中は早くも蒸れ始めてる。それより何より、こんな恰好で外に出ている恥ずかしさに体が火照ってしかたない。
大丈夫、大丈夫――ぼくは自分に言い聞かせる。
「通過儀礼」と言っても、今回のことはそれほどひどい内容じゃない。今までみたいに、いきなり昼日中に大勢の人の前へと連れ出されるよりは、ずっとマシだ。
ニナちゃんの部屋に行って、女の子として遊んでから、鍵を返してもらう。それだけだ。
それだけの、はずだったのに――。
「あら、たぁちゃん。こんばんは。ふふっ、うちのニナとお揃いね」
「たぁちゃん、ニナとお揃い~」
恥ずかしい思いをして部屋から出て、団地の廊下を15メートルほど歩いて三つ隣のニナちゃんのお部屋を訪ねたとき、ぼくとお揃いのベビー服を着たニナちゃんと、ニナちゃんのママは、玄関で出かける準備をしているところだった。
悪い予感がする。
「ふ、二人とも、お出かけ?」
「うん。ママとね、ふぁみれす行くの!」
「ええ。近所に、《チルチルミチル》がオープンしたの、知ってるでしょ?」
《チルチルミチル》。いくつものファミレスを経営するグループが最近立ち上げた、新しい系列店だ。「お子様・家族連れのメニューを充実させる」というコンセプトで、青い鳥を挟んで小さい男の子と女の子が向かい合う看板が、主に新興住宅地のそばに立てられている。
このあたりには最近までなかったんだけど、つい半月前、真新しい看板が青いビニールカバーの下から現れ、近所のママさんの間で評判だ。
「今までいったことがなかったんだけど、ニナのお友達が自慢したみたいでね。ニナったら、どうしても行くって言って聞かないのよ」
ニナちゃんのママはそういって、困ったように笑う。
「だからこれから、《チルチルミチル》でお食事なの」
「そ、そうなんだ……じゃ、じゃあ、ニナちゃんがお出かけから帰ってきたらそのときに……」
もう一度ニナちゃんのうちを訪ねるから――そう、言おうとしたとき、急にニナちゃんが大きな声で言った。
「そうだ! せっかくだし、たぁちゃんも一緒に行こっ?」
「えぇっ!?」
最悪の展開だ。ぼくは慌てて、顔の前で両手を振って、
「い、いいよ。二人でお出かけするの、邪魔したら……」
「邪魔なんかじゃないわ。二人が一緒なら、ニナも喜ぶもの。ねぇ、ニナ?」
「うん! ニナも、たぁちゃんと、ミサお姉ちゃんが一緒の方がいい!」
「ほら、ね。倉田さんも、構いません?」
ぼくは祈る思いで、ミサ姉ぇ(本名は倉田操)を振り返る。けれど――
「ええ。おじゃまでなければ、ご一緒させていただきます」
判っていた。ミサ姉ぇは、にっこりと微笑んでうなずいた。まるで最初から、この流れを予測していたように。
まさか――最初から、このつもりで?
すがるように、ミサ姉ぇを見上げる。自分では判らないけど、きっと泣きそうな――本当に小さな赤ちゃんが、不安に母親の顔を見るような目をしていたに違いない。
ミサ姉ぇはぼくをあやすように、にっこりと笑った。
「さぁ、行きましょ、たぁちゃん。お外でお食事なんて、楽しみね。《チルチルミチル》なら、たぁちゃんにも食べられるものがいっぱいあると思うわ」
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