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『女児転生』 第一章(7)
(7)
ああ、着ちゃったんだ……。
ここに来て、俺の心情に奇妙な変化が起こった。もちろん、この服が気に入ったとかそう言うことではない。なんだろう。小学生風の制服なんて恥ずかしい服を着せられているにもかかわらず、先ほどまで感じていた、全身の震えを堪えるような屈辱感が、無くなっていたのだ。
むしろどこか足元がおぼつかないような、現実感を失った感覚だ。目の前に先生と莉子がいるのに、それさえも書き割りか何かのように、存在感がない。だから「莉子」が、
「可愛いなぁ、山野君。本当に、小学生みたい」
言ったときも、俺は全然気にも留めなかった。半ば思考を止めた状態で、紙袋をのぞき込む。
遂に紙袋の底が見え、小さなリボンのついたヘアゴムが二つ、転がっていた。それを手に取ると、先生はこう言った。
「頭の上の方で、左右に小さな房を作って留めなさい」
小さな女の子みたいに、ツインテールにしろと言うことだ。男にしてはちょっと長めの髪が、今は恨めしかった。小さめとは言え、なんとかツインテールを作れるだけの長さはあるのだ。
「ふふ。山野君、すごく似合ってるわよ。さぁ、こっちのランドセルを背負って、安全帽をかぶれば完璧ね」
肩ベルトを向けて差し出される、赤いランドセル。それを背負い、さらに黄色い安全帽を、さっき外したときに置いた机の上から取り上げて、かぶる。内側から伸びた白いゴムをあごの下で留めれば……。
「っ、……はぁ、き、着替えたよ……」
目の前の二人は俺の言葉に、満足げに笑って肯いた。先生はとどめとばかり、へりに赤いラインが入った上履きを、俺に向けて手渡す。
「じゃあこの上履きの爪先のあたりに、ひらがなで名前を書いてちょうだい。学年は、山野君が一年生の時にいた、1-2でいいから」
俺はのろのろした動きで、続いて差し出されたサインペンを手に肯いた。
「1-2 やまの たけし」
書き終わると、俺は上履きを床に下ろして脚を通す。小学生の時以来の、ぺらぺらした上履きの感触だった。
「うん、完璧。どこから見ても、小学生の女の子ね。じゃあ、行くわよ。莉子さんも、ついてきて。山野君のバッグを持って、ね。そっちのスポーツバッグはそのままでいいから」
「はーい。ほら、山野君。いきましょ」
「山野君は、そっちの体操袋も持って。あと、このプール袋も」
「はい」
肯いて、ピンクギンガムの体操袋と、プールタオルが入った透明なビニールバッグを手に取る。その間に、先生は俺の背負ったランドセルの横に、小さな白い布袋の紐を引っかけていた。
なんだろう、と思う間もなく、先生は「行きましょ」と言って俺から離れ、英語科特別室に続くドアを開けた。先生に続いて莉子も特別室のほうに向かい、俺も彼女の後を追って特別室に入り、
開いた窓から外気が入り込み、俺の身体をなでる。
窓から見えるのは、日差しを浴びた外の景色。
校舎裏手のテニス・コートでラケットを振る生徒たちの姿が見えた。
俺は、悪夢から覚めたようにはっと目を開けた。
自分の格好を、あらためて見下ろす。
まず見えたのは、ふちに女の子用の印である赤い色が入った上履き。そしてレースのついた白いソックスの足先から、むだ毛の少ない向こうずねが続き、膝丈までの紺のプリーツスカートが揺れている。腰のところでスカートの紺と、ブラウスの白がくっきりと分かれ、しかしスカートから伸びた肩紐が、まるで身体を縛り付けるかのように、ブラウスの白に影を落としていた。
襟元には黄色いリボンと、丸襟に施された縁取りと刺繍がアクセントになり、いっそう幼い印象だ。吊りスカートの肩紐と、赤いランドセルの肩紐がかかった両肩から続くのは、白いブラウスに包まれた両腕。手首のあたりをゴムがきゅっとすぼめ、こちらも赤い縁取りがされたフリルの袖口から、白い両手首が覗いている。
目に見える場所ばかりではない。スカートの下の厚ぼったい生地は、下腹部をぴったりと包んでいて、両太腿付けねとおへそのあたりにゴムがあたり、普段ははき慣れていない厚手の肌着を穿いていることを意識させる。ブラウスの下に微かに透けているキャミソールも、ゴムこそ入っていないがサイズが足りないせいで肌にぴったりと張り付き、存在感を訴える。そしてあごの下にあるゴムは、ちょっと目線をあげれば黄色い安全帽のふちが見えることを、いちいち思い出させる。
なんで──なんで俺は、こんなものを着ている!?
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次の展開も期待しています。他の女の子にもでてきて欲しいな。