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『月夜哉』 第一章(4)
(4)
痛い。
もはやそれしか考えられない。自分の口から何か、獣の断末魔のような声が響いていたが、何を言っているのか、そもそも意味のある言葉をしゃべっているのかさえ判らない。
(お前には、私に従うしかない)
遠くから、何か聞こえる。聞こえると言うよりも、頭の中に直接その“意味”が染みこんでくるような声。脳に巻き付いて、じわじわと締め上げられるようですらあった。
(どうした? さっきまでの威勢の良さはどこに行った? ほら、少しは抵抗してみろ。そうでないと面白くないからな)
蛇男に組み敷かれ、服を剥ぎ取られ、力ずくで押さえ込まれてすぐ、そんな囁きが聞こえた。
(貧弱な男だ。その程度で、抵抗になると思っているのか? お前はその程度だ、と言うことだな。大人しく、男に尻を差し出しているのがお似合いだ)
(そら、お前の中に入ってやったぞ。これでお前は男失格だな。そうだろう? どこに、男から尻を掘られる男がいると思っているんだ?)
(叫ぶだけしか能がないのか。レイプされかけた女だって、もう少し精いっぱい抵抗するぞ。……ああ、なるほどな。口ではあれほど言っておきながら、実はこうされたかったのか。いままでのは、抵抗している振りだったんだな? 違うとでも言うつもりか? それとも、図星を指されて慌ててるのか?)
(もう動く力もないのか? なんだ、よがり声を上げてるじゃないか。男のくせに同性からレイプされてよがり声を上げるなんて、とんだ淫乱オカマ野郎だな。お前それでも男か?)
罵倒。
侮蔑。
揶揄。
嘲笑。
耳元で囁かれる言葉は、判断力を失ったぼくの脳に次々に刷り込まれていった。
男性に犯されて、抵抗することもできない屈辱。
股間を左右に引き裂かれているような、圧倒的な苦痛。
そして、ぼくという存在を次々に否定されていく喪失感。
ぼくは堕ちた。
がんがんと肛門を前後する肉棒の感覚と、背中や腰に感じる男の体重。そんな無力感と絶望感、圧倒的な屈辱の中で、ぼくを犯している人間から発せられる絶対的な言葉。どんなにそれが理不尽で、不合理で、単に力ずくで犯している側からの言い分にしかすぎないと判っていても、無条件で従わざるをえなくなるような感覚。
やがてぼくは、体内に埋め込まれたペニスから、熱いものを腸内に注ぎ込まれた。彼は動きをやめ、ぼくの耳元で囁いた。
(今日からお前の名は“葉月”だ)
ぎりぎりまで痛めつけられた直後の、虚脱感。それは暴風雨のようなレイプの後で、ある種の安らぎを持っていた。その安らぎの中で囁かれた言葉。激痛と屈従が止み、まるで唯一の逃げ道のように、ぼくの前に示された言葉。
これがこの蛇男の手なのだと判っていても、ぼくはそれに無条件ですがるしかない。
(お前はもう、男じゃない。男や女の下にあって、ただいたぶられ、皆を満足させることしか存在価値のない存在だ)
(いいか、“ハヅキ”。これからは、俺たちが斡旋する客の満足を得ることだけを考えろ。お前はもう、それだけの存在なんだからな)
こうしてぼくはこの日から、“葉月”となった。
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