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十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2024-05

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『月夜哉』 第一章(2)


 (2)

 ネオンサイン。
 入った途端に左右にきらびやかな電飾が光り、風俗店から怪しげなバーまでずらりと立ち並ぶところを想像していたが、目の前に見える中通りの風景は、ぼくにとってはあまりにも予想外だった。
 ごくありふれた、そこら辺の繁華街と大して変わらなかったのだ。
 たしかにネオンサインは輝いているし、客引きとおぼしき男女がうろうろしていたけれども、いまさっきまで歩いていた歌舞伎町のあたりと、ほとんど変わらない。なんか、拍子抜けだ。
 それでも警戒して、ぼくは足早に通り過ぎようとする。客引きも、通り一遍に声をかけては来るけれども、どうやら通りすがりの貧乏学生と見切ったらしく、しつこく追ってくることはない。ぼくは安心して、少し歩調を緩めた。
 と。
(あれは、なんだろう?)
 ぼくは思わず、反対側の歩道を歩く若い男性を見つけて目を丸くした。男性が歩いている、それだけなら違和感はない。

 しかし、それが四つ足で歩いているのなら、話は別だ。

 まるで犬のように、彼は四つ足で歩いている。膝をついたはいはいの姿勢とは違い、両手の平と両足裏を地面につけて歩いているのだ。狼男の変身途中みたいな姿勢だった。
 しかもその服装は、下着一枚に首輪という姿。しかもその下着さえも、卑猥なピンクのTバックという姿だった。顔は見えないが、周囲からの視線を浴び、かろうじて見える頬は真っ赤になっていた。首輪を引いているのは、すっきりしたパンツスタイルの女性。こちらはごく普通に二本脚で歩き、リードを引いて歩いていく。
 気付けばその男性に見とれて、ぼくは歩道の真ん中に立ち止まっていた。そのとき、いきなり肩にトン、と手を置かれた。慌てて小さな叫び声とともに振り向くと、そこにはひとりの男性が立っていた。
 かなり背の高い男だった。彼の顔を見るには、身長165センチのぼくだと、かなり見上げなければならないくらい。おそらく、185センチはあるだろう。逆三角形の細身の身体に、仕立てのよいグレイのスリーピースが、恐ろしいほど似合う。まるで一幅の肖像画のようだ。
 やや酷薄そうな目元に、オールバックにした髪のうち、まとめきれなかった前髪がかかる。知的な印象だが、同時に酷い冷たさを感じる瞳。機械的な冷たさではなく、自らが楽しむためにどこまでも残酷になる、人間的な冷たさだ。
 ぼくはとっさに、白い大蛇を連想した。太い胴体をもつ、真っ白な大蛇。獲物を冷徹な目で見つめ、頑強な身体を持って獲物の動きを封じ、時には胴体に絡めとられた中で暴れる獲物の動きを、楽しむようにいたぶる。そして獲物が弱るのを待ちながら、じわじわと絶命させ、最後にその獲物を丸呑みにしてしまう。そんな、大蛇のイメージだ。
「あれに、興味があるのかな?」
 彼はそう言った。
 ぼくが慌てて返事しようとした次の瞬間、その男の瞳が不意に視界いっぱいに広がり、ぼくはその眼光に射すくめられ、気を失った。

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