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十月兔

強制女装を中心とした小説・イラストのブログです。

2024-05

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乙女座の園 第5エリア(3)

(3)

 その日の夜、九時。良介は、四谷にある小さなバーに来ていた。クラシカルな雰囲気の店だった。
 待ち合わせた時間通りに店内にはいり、中を見渡す。相手はまだいないようだ。とりあえずカウンターに座り、オールド・パーの水割りを頼んだところで、カウンターの隣に座っている男が振り向いた。ちょっと長めの髪を後ろで束ね、襟元をくつろげたカラーシャツにジャケットという、一見するとホストのような服装の青年だった。
 その青年は、彼は良介を見るなり、にこりと微笑んだ。
「良く来てくれましたね、有沢先輩。僕です」
「え……!」
 良介はぎょっとした。青年は恥ずかしそうに頭を掻き、
「はは、やっぱりこの格好じゃ判らないかな。私です……っていえば、判りますか」
「……、古本くん」
 青年……いや、古本留美は小さく肯き、少し寂しそうに笑った。
「先輩にとっては、僕はもう完全に女性なんですね。こうして男に戻っても、全く判らない。まぁ、当然ですけどね」
「……」
 そう。先程の人事部長と話を終えた直後、留美から電話が来たのだ。彼女は今夜、このバーで会いたいと言ってきた。折しも、人事部長の話からそれとなく当たりを付けていた良介にとっても、渡りに船だった。是非とも彼女にあって、直接確かめたかったのだ。
 古本留美こそ、良介の前任者。黒谷社長の手によって女装を強制された上、自らも女性としての自覚を持ち、性転換するに至った人物なのではないか、と。
 しかし十分に予想していたこととはいえ、普段はフェミニンなOL姿を見せている留美が、こうして男性として振る舞っていると、本当に見分けがつかなかった。
 何を言えばいいのか判らず、ただ黙って聞いているだけの良介に、留美は身の上話を始める。
「話すと長くなるんですけど、僕はもともと男だったんです。少なくとも、高校卒業時までは普通に男子高校生でした。彼女もいたし、普通にセックスだってしてましたよ。それが、あの社長に色々されて、今では完全に女の子です。まずはそのあたりの処から、話を始めましょうか」
「……いや、聞いてるよ。大まかなところは」
 留美は、ぎくりと身をひいた。そんな留美に、人事部長から聞いたことを話してやると、彼女は安心したように肯いた。
「なるほど、部長から聞いたんですね。そう。人事部長の話したとおりです。僕はもともと、古本留美ではなく、晴海新一という名前で、男として生活していました」
 照れたように頭をかき、留美は話を進める。
「だから、有沢先輩の気持ちも、僕には凄く判るんです。僕も凄く抵抗しましたからね。自分は女性じゃない、男なんだ。なんで男の僕があんな服を着なければならないのか、って。でも、今の僕なら言える。あの時僕が抵抗していたのは、本当に些細なことだったんだって」
「説得のつもりかい?」
「違いますよ。今日するのは有沢先輩の話じゃなくて、僕の話です。僕自身が、黒谷社長から女装を強制され、女性として振る舞わされ、さらに小さな女の子として扱われたとき、どう感じたか。そして今はどう思っているのか。それを聞いて有沢先輩がどう考えるかは、また別の話です。
 もしかしたら先輩は、僕の考えに反発して、ますます黒谷社長との溝を深めてしまうかも知れない。あるいは、僕と先輩との間に、溝を作ってしまうかも知れない。先輩は僕のことを、男の風上にも置けない、情けないやつと思うかも知れない。しかしそれでも……僕は、自分の考えを話します。よろしければ、しばらくお付き合い下さい」

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